イタチとの出逢い

雅がターゲット全員の始末を目標に、暗殺を始めた当初。
人を殺した事のなかった雅は、自らの手で人が死ぬと言う感覚に戸惑っていた。
犯罪組織に加担しながらも、殺戮に何度も手を染める自分が自分ではなくなるようで、恐怖を感じずにはいられなかった。
そんな時、イタチと出逢った。

初めてイタチと逢ったのは、角都に賞金首を渡す約束をした日だった。
雅が待ち合わせ場所に到着すると、其処には角都と飛段だけではなく、イタチと鬼鮫もいたのだ。
鬼鮫が鮫肌に賞金首をぶら下げていたのが印象的だった。
鬼鮫は既に事切れている忍を鮫肌から無造作に下ろし、黒衣のフードで顔を隠している雅に言った。

「初めまして、お話は聞いていますよ。
あのデイダラさんを半殺しにしたらしいですね」

同じ霧隠れの里出身の鬼鮫は、丁寧語で話した。
勿論、雅の一族の悲劇を知っていたし、雅も干柿鬼鮫を知っていた。
雅は雪女、鬼鮫は霧隠れの怪人として知られる忍だ。

「私は干柿鬼鮫。
以後お見知りおきを」

鬼鮫とツーマンセルを組むイタチも、暁に加担している雅に名乗った。

「うちはイタチだ」

うちは一族を皆殺しにし、木ノ葉隠れの里を抜けた忍だ。
雅はこの時、写輪眼を初めて見た。
血のような赤が哀しげな色に見えたのを覚えている。
雅はフードを脱ぎ、二人に顔を見せた。

「雅と申します。
宜しくお願い致します」

丁寧に頭を下げた雅に、鬼鮫は目を見開いた。
普段からあまり表情を崩さないイタチも、珍しく驚いたような目をした。
我に返った鬼鮫は、物珍しそうな口調で言った。

「これはこれは…驚きましたね。
噂以上の美しさです」

雅はどのように反応したらいいのか分からなかった。
すると、飛段が相変わらずの熱烈っぷりで話しかけてきた。

「雅ちゃん!
今日こそオレと付き合ってくれよォ!」
「お断りします」

微笑んだ雅は飛段に抱き締められそうになったのをすいっと避けると、角都の前に立った。
賞金首が封印してある巻物を差し出すと、代わりに情報の書かれた紙を受け取った。

「ご苦労」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「次は一週間後に例の神社だ」
「了解しました」

これで用事は終了だ。
この情報を元に、次のターゲットを捜索しよう。

「それでは、失礼します」

雅はフードを被り直す前に微笑み、頭を下げてから走り去った。
しかし、追いかけてきた人物がいた。
うちはイタチだった。
雅は特に警戒する事もなく、森の中で立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。
イタチは雅から適度な距離を取り、話し始めた。

「訊きたい事がある」
「どうしましたか?」
「お前は医療忍術を使えるらしいな」
「少しだけですが」

半殺しにされたデイダラが雅の医療忍術によって生き長らえたという噂は、暁全員に広まっていた。
この噂もまたデイダラの屈辱に拍車をかけたものだ。

「薬を作れないか」
「薬ですか」

誰かが病気なのだろうか。
一人で追いかけてきてまで雅にその話をするという事は、他のメンバーには聞かれたくない話のようだ。

「ごめんなさい、私は簡単な医療忍術しか学んでいないんです。
殺し専門ですから」
「…そうか」
「ですが、優秀な薬師を知っています」

ターゲットの影武者として拘束されていた薬師を救ったのは、つい先日の話だ。
彼は雅に些細なお礼だと言って、特製の兵糧丸をくれた。
今後も是非自分を頼って欲しいと懇願された。

「彼に掛け合ってみても構いません」
「頼めるか」
「それで、誰がどのような症状なんですか?」
「薬が必要なのは俺だ」
「…あなたが?」

雅はイタチの病状を聞いた時、彼はもう長くないと思った。
まだ若いというのに。
何か出来ないかと短く考え込んだ時、叔父上と慕うあの男の台詞を思い出した。

「今、少しなら症状を和らげる事が出来るかもしれません。
試してみましょうか」
「ああ、すまない」

うちはイタチというのは、残忍で無慈悲な暗殺者だと噂で耳にした。
しかし、雅は話しているとそうは思えなかった。
無表情とはいえ、その声は冷淡ではなく落ち着きがある。
イタチは木に凭れるように座り、雅がその斜め前に両膝をついた。

「失礼します」

イタチの鳩尾部分に両手を重ねて置き、チャクラを練った。
一族の生き残りである叔父上から教わった医療忍術だ。
イタチは肺を中心に巡るチャクラに、自然と目を閉じた。

「…お前のチャクラは冷たくて心地良いな。」

雅は説明した。
私の一族のチャクラはその特異性により、癒しの効果を発揮する。
傷の修復は勿論、精神的にも効果があるのだという。

「お身体に合えばいいのですが…」

吐血する肺を中心に、症状が和らぐように努めた。
もし身体に合わないようなら、すぐやめなければ。




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