延命の判断

彼に逢うのは大体三ヶ月振りだ。
雅は彼の病状の悪化を懸念していた。
前回逢った時も、顔色が悪かったのを覚えている。
早朝の森の中を一人で駆け抜けていると、目的地に到着した。
待ち合わせていた二人の人物が、既に其処にいた。

「イタチさん、鬼鮫さん。
お久し振りです」
「久し振りだな、雅」
「雅さん、お久し振りですね」

雅は黒衣のフードを脱ぎ、二人に頭を下げた。
木の根元に腰を下ろしているイタチを見ると、相変わらずの写輪眼だった。
その顔色は悪いようには見えないが、雅にはそれさえ強がっているように見えた。

「お身体の方は?」
「問題ない」
「問題があるから雅さんに逢うんでしょう?」

イタチは鬼鮫を静かに一瞥したが、鬼鮫は肩を少し竦めてみせるだけだ。
雅はそんな二人の遣り取りに微笑んだが、イタチに穏やかに言った。

「皆さんが来る前に、終わらせてしまいましょう」

イタチの斜め前に両膝をついた雅は、黒衣の下に隠してあるウエストバッグから小袋を取り出した。

「約束の物です」
「すまないな」

イタチから薬の代金を受け取った雅は、ふと気配を感知した。
此処で同じく待ち合わせている四人だ。
デイダラとサソリの芸術コンビ、そして角都と飛段の不死コンビだ。
予想以上に早い彼らの到着に、雅は眉を潜めた。

「鬼鮫さん、上手く言って彼らを足止めして貰えませんか?」

特に、デイダラに見られるのは困る。

「やれやれ、難しい事を言いますね」
「どうか、お願いします」
「分かりましたよ」

愛刀の鮫肌を肩に担いだ鬼鮫は、其処から駆け出した。
雅はイタチの鳩尾部分に両手を重ねて置き、医療忍術を使い始めた。
冷んやりと心地良いチャクラが、イタチの肺を中心に身体全体へと流れた。

「気休めにしかなりませんが…」
「いいや、よく効く。
やはりお前のチャクラは俺の身体に合っている」

雅の一族特有の低温のチャクラが、イタチの傷んだ身体に合うと知ったのは二年前だ。
雅はイタチの深紅の写輪眼を見つめた。
イタチも氷を思わせる雅の瞳を見つめ返した。

「せめて私の前では写輪眼を控えてください」

イタチは目を閉じ、そっと開けた。
本来の漆黒の瞳が其処に現れた。

「それで、お身体の方は?」
「…」
「答えてください」
「頼んだ通りだ」

雅は目を伏せながらも、チャクラを練り上げ続けた。
イタチは自分の病状に改善が見られず、延命の為の薬に変更したいと雅に頼んだのだ。

「薬師はそれを秘伝の薬だと言って渡してくれました。
もうこれ以上の薬は調合出来ない、と」
「ありがたく思っている。
機会があれば、礼を言っておいてくれ」
「分かりました。
薬の代金も必ずお渡ししておきます」

あの薬は延命を強制する効果がある。
イタチは来たる弟との決戦の為に無理にでも延命し、戦って殺されようとしている。
雅はそれを知っていた。

「雅、俺は薬で延命したとしても長くはない」
「……そんな話は聞きたくありません」
「雅」

目に涙が滲むのを必死で我慢しながら、雅はイタチの目を見た。

「お前は俺の妹のようだった」
「過去形にしないでください」

イタチは雅の頭を優しく撫でた。
黒衣のフードで顔と髪を隠してしまっているのは勿体ない、といつも思う。
弱気な表情を見せまいと堪えている雅を見ると、イタチまで心が痛んだ。

「イタチさんは…私が暗殺に苦しんでいる事に気付いてくれた唯一の人です」



2018.8.24




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