誰も欠けないで

雅は到着した小国で薬屋に向かうと、知り合いの薬師の男に逢った。
依頼していたものをしっかりと受け取った。
一ヶ月振りに逢ったその人物は、雅よりも一回り歳上で、何かと深く詮索しない男だった。
現在はこの小国で小さな薬屋を経営していて、雅も世話になっている。
料金を支払った雅に、薬師は言った。

―――君がこの薬を渡す忍というのは、相当な重病人なんだろう。

雅は薬を渡す相手に思いを馳せながら、明かりの殆どない畑だらけの道を歩いた。
毒刀に刺された件を考慮し、念の為に万能の解毒薬も貰った。
ウエストバッグに薬の小袋を慎重に入れ、雅は一歩一歩を重い足取りで進んだ。
見えてきたのは一軒の民宿だ。
薬師の友人が住む宿であり、雅も何度か泊まった過去がある。

「雅」
「…デイダラ?」

宿の前にはデイダラが待っていた。
既に部屋は取ってあるというのに、雅を待っていたのだ。
雅は慌てて駆け寄った。

「待っていてくれたんですか?」
「まあな。
お前が一人で行くって言うから気になっただけだ、うん」

この薬の件は誰にも話せない。
特に、デイダラには。

「薬はちゃんと貰えたか?」
「無事に貰えましたよ」

雅はこの国に到着してから民宿の部屋を借り、そのまま食事もせずに薬屋へと向かったのだ。
まるで焦っているかのようで、デイダラは心配だった。
汎用性の高い解毒薬を貰いに行くと話していたが、果たして本当にそれだけなのかは分からない。
雅が話そうとしないのなら、無理に聞き出そうとはしない。
雅はその心配を吹き飛ばしてしまうような穏やかな微笑みを見せた。

「部屋で夕食にしましょうか」
「そうだな、うん」

もう何度目かのドキッを経験したデイダラは、雅の手を握った。
二人は寄り添いながら、宿に入った。
今夜は宿から食事を提供して貰えるのだ。




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