誰も欠けないで-2

部屋のシャワー室でさっぱりとした雅は、群青色の浴衣姿だ。
慣れない廊下を通り、とある部屋のドアをノックしてから、無遠慮に開けた。

「サソリさん来ましたよ」
「…来るなんて聞いてねえぞ」

わざわざ氷で解錠してまで部屋に入ってきた雅に、ヒルコ姿のサソリは沢山の巻物を広げながら唖然とした。
何故か雅は飲食の必要がないサソリと食事を共にするのを好むのだ。
一方のサソリも、もしかしたら雅とデイダラがこの部屋に突撃してくるのではないかと思っていた。
畳の上のテーブルは四つの座布団に囲われていて、雅はその一つに腰を下ろした。

「デイダラはもうすぐ来ます」
「あのヤローも来るのか」
「食事ももうすぐ来ますよ」

デイダラは今、シャワーを浴びている頃だ。
雅はデイダラに無断で先に此処へ来た。

「サソリさん」
「何だ」
「聞いていました」

サソリは手を止め、雅の真剣な表情を見た。
デイダラはこの顔を芸術的だと連呼しているが、それは間違いない。

「空を移動中に、サソリさんとデイダラが話していた内容を聞いていました」
「狸寝入りか。
悪趣味な女だ」

雅が起きていたとは。
サソリもデイダラも全く気付かなかった。

「暁に加入する気はあるのか?
ペインは間違いなくお前を誘うだろうぜ」
「人員が不足する事態に陥るなど考えたくもありません」

雅は暁のメンバー全員に逢った事がある。
その中の一人でも欠けるのは嫌だ。

「もしもの話だ。
誰か一人でも死んだ時、ペインから暁加入の要請があったら、お前はどうする?」
「…決めかねています」
「デイダラは反対だと言っていたが。」
「デイダラが反対したとしても、暁が危機に晒されるのであれば力を貸します」

雅とサソリは見つめ合った。
サソリはまるでヒルコ内にいる本体の自分を見透かされているような気分になった。
雅の視線は凛として力強かった。

「デイダラが死ぬのが怖いか」
「皆に生きていて欲しいんです」
「ターゲットを始末したら死のうと思っていたお前が、よく言えるものだな」

雅はサソリの台詞に全く屈しなかった。
更にはサソリに訴えかけた。

「私はサソリさんにも生きていて欲しいんです」
「俺は死なねえ」

サソリには自信があった。
この身体は傀儡、朽ちる事のない永久の美だ。

「尾獣は手強いと聞きます」
「だろうな」
「どうか、お気を付けて」

そんな事は言われなくても分かっている。
サソリはその台詞を口には出さなかった。
雅は社交辞令でも何でもなく、心から言っているのだから。
サソリはヒルコ内でほくそ笑んだ。

「デイダラはお前が三日後に角都と落ち合うまでついて行くつもりだぜ」
「構いませんよ。
情報収集に回るので、お二人を退屈させてしまうかもしれませんが」

暗殺ならデイダラとサソリも手を貸せるが、情報収集は雅に任せる方がいい。
無闇に複数人で動くと、ターゲットにこちらの動向を知られてしまう恐れがある。

「俺は其処にあった洞窟で人傀儡を作る」
「何日出てこないんですか?」
「丸二日だ」

その時、ドアが大きな音を立てて開いた。
雅の浴衣と同じ色の甚平姿のデイダラが、血相を変えて入ってきたのだ。

「おい、雅!
先に行くなんて聞いてねーぞ!」
「ごめんなさい。
サソリさんとお話していました」

髷のないデイダラが雅の隣に座ると、サソリは作業を再開した。
巻物を順に開き、確認しては閉じていく。

「何を話してたんだ?」
「お前の陰口だ」
「うん?!何だと旦那!」

この後、二人分の食事が運ばれてきた。
デイダラとサソリは其々の芸術について論争を繰り広げた。
雅はそれを微笑みながら聞いていた。
暁の誰にも、欠けて欲しくはない。
たとえ彼らがS級犯罪者だとしても。



2018.8.17




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