名残惜しい見送り-3
「それじゃ、オレたちも行くか」
飛段は二日酔いの身体で伸びをすると、デイダラを射抜くように睨んだ。
「雅を泣かせんじゃねーぞ。
そんときゃ呪い殺してやっからな」
「上等だぜ、うん」
デイダラと飛段は睨み合った。
その間に雅と角都は向き合った。
「次に逢えるのはいつになりますか?」
「分からん」
「そうですか…」
尾獣捕獲に乗り出す暁は、任務が不定期になる。
逢う日時を約束しても、其処へ向かえるか否か保証出来ないのだ。
角都と飛段の二人と雅は月に数回、定期的に逢って来たが、今までになく間が空きそうだ。
「ターゲットは残り四人です。
情報はもう結構ですから、任務に集中してください」
「分かった」
こうして見送る時、いつも寂しいと思う。
自分が角都を頼りにしているのだと痛感する。
眠りながら無意識にしがみつく程に。
「常に気を抜くな」
「角都さんこそ」
「言うようになったな」
雅は無垢に笑ってみせた。
癒しを与えてくれるその笑顔を見つめながら、角都はデイダラの台詞を思い出した。
―――旦那はもっと雅に気持ちを伝えたらどうだい?
その時、角都は胸に軽い衝撃を受けた。
雅が飛び込んできたのだ。
ぎゅうっと背中に両腕を回され、両腕で強く抱き締め返した。
デイダラと飛段から視線を感じるが、この際眼中にない。
「感謝しています。
いつも頼りにさせてくれて」
「…そうか」
「これからもずっと、頼らせてくださいね」
雅は背丈のある角都を見上げ、少し照れ臭そうに言った。
「角都さんが大好きです」
角都は目を見開き、何も答えられなかった。
雅の後頭部に片手を遣り、雅からの視線を遮るかのようにグッと引き寄せた。
角都の胸板に顔を埋めた雅は、低音で落ち着きのある声が間近で聞こえた。
「一度しか言わん、よく聞け」
「はい」
角都の声はとても小さく、雅は真剣に耳を傾けた。
「お前が大切だ。
失うなど考えられん」
「…!」
「お前以外に俺に酌をする女はいらん」
雅は目が潤んだ。
胸が一杯になった。
「…ありがとうございます」
角都に抱き着く腕に力を込めた。
近々、また逢えるようにと願いながら。
「賞金首は冷凍保存しておけ」
「ちゃんと置いておきますね」
二人は名残惜しそうにゆっくりと離れた。
それを横から割って入ったきたのは飛段だった。
「雅ちゃん!オレにもハグしてくれ!」
「てめー爆破するぞ!うん!」
「殺すぞ」
デイダラと角都からそう言われると分かっていた飛段は、残念そうに頭を掻いた。
二人分の殺気が突き刺さっても、飛段にとってどうって事はない。
ハグの代わりに、雅に手を差し出した。
「じゃあ、握手だ」
「是非」
二人は手を握り合った。
不死身の男は視線を泳がせながら、少しばかり照れながら言った。
「オレはマジでお前に惚れてっからな。
忘れないでくれよ?」
「もう伝わっていますから」
雅は穏やかに微笑んだ。
それを見た飛段は雅の手を引き、その頬に短く唇を落とした。
デイダラの顔が真っ青になり、角都には殺意が湧き上がった。
きょとんとした雅に、飛段はニッと笑った。
「あ…」
「ほっぺにチュー貰ったぜ」
飛段は雅の頭をくしゃっと撫でた。
たちまち二人分の殺気が飛んできたが、それを避けるかのように呑気に歩き始めた。
最後に振り向き、雅に大きく手を振った。
「じゃあな!」
「飲み過ぎはいけませんからね!」
「おー!」
角都は歩き出した途中で立ち止まり、静かに振り向いた。
怒り心頭だったデイダラは角都と視線を合わせた。
「デイダラ」
「何だい、旦那」
「雅を泣かせるな」
口角を上げたデイダラは頷いた。
雅は頬を赤らめ、デイダラの横顔を見た。
その視線に気付いたデイダラは雅の手を握り、雅も握り返した。
デイダラは角都に「雅は任せろ」と伝えたかったのだ。
角都はその様子を見て苛立たない自分に驚きながら、二人に背を向けた。
雅とデイダラは遠退いていく不死コンビに言った。
「じゃあな、旦那!飛段!」
「お気を付けて!」
雅とデイダラは手を繋ぎながら、二人に手を振った。
イタチと鬼鮫とは別の方向へと歩いていく二人を、見えなくなるまで見送った。
ありがとう。
雅は心の中でそう呟いた。
2018.9.10
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