野菜のスムージー

祖父と母に愛を紹介した後。
愛が去年末から行きたがっていたスムージーの専門店を訪れた。
クリスマスプレゼントに愛から貰った腕時計は、夕方5時を示している。
俺たちは商店街の一角で売っているスムージーを隣同士で立ち飲みしていた。
愛は苺味、俺はオレンジ味にした。
不思議な味だが、意外と美味い。

「何事もなく終わったな。」

『でも緊張した。』

厳格な祖父でさえ、愛に対して好感度が高いようだった。
母は終始楽しそうにしていた。
連れていって良かったと思う。

「孤独、なのか。」

『ん?』

―――年に何度も国際試合に参加していると、孤独を感じる時があるんです。

「孤独を感じると言っていた。」

『あの話?』

愛の台詞は俺にとって少なからず衝撃的だった。
天真爛漫な愛は友人も多いし、自分を単純馬鹿だと公言している。
単純に試合を楽しんでいるものだと思い込んでいた。

『まあ…時々ね。』

「如何すればそれを埋められる?」

愛は俺を見上げ、綺麗な目を瞬かせた。
俺は愛に関して知らない事がまだまだ沢山ある、と痛感した。
去年のW杯に関してもそうだった。

『国光が一緒にいてくれたら、それでいいよ。』

愛は俺の腕に手を掛けると、目を伏せた。

『ごめん、去年国光の事自分から突き放した癖に何言ってるんだろ…。』

「もう忘れろ。」

『絶対無理。』

ストローからスムージーを飲みながら、愛は遠い目をした。

『孤独だと思うのに、テニスを休みたいと思えないの。

でも国光と一緒にいる時間がもっと欲しい…特に今は。』

心の距離が元に戻ったばかりで、お互いに傍にいたいと思っている。
愛はテニス界の世界女子ジュニアを牽引し、そのトップを走り続けている。
それは愛にとって誇りであり、自信に繋がる。
しかし、それが愛に孤独を感じさせている。

「お前は自分がしたい事をすればいい。

俺はそれを尊重する。」

『優しいね…だから国光に甘え過ぎるのかも。』

「甘え過ぎる…?

そんな事はない。」

寧ろ、もっと甘えて欲しい。
内に秘めた想いをぶつけて欲しい。
お互いに肩を触れ合わせながら見つめ合った。

「俺はこれからもお前を支える。」

―――国光、貴方が支えてあげないとね。

母もそう言っていた。
兄の不二が言った通り、俺は愛の監視役という名の恋人に完全復帰した。

「次はお前が突き放そうとしても放されないからな。」

『うん!』

愛は無垢な笑顔を見せてくれた。
孤独を感じなくなる程に、傍にいよう。
傍にいるという実感があれば、きっと孤独も和らぐ筈だ。



2017.8.18




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