チョコレート騒動

お昼休みを献上し、お兄ちゃんの下駄箱前にいる。
それには思わず失笑してしまうような理由がある。

「準備はいいかい?」

『さあ来い!』


―――どさどさどさ!


お兄ちゃんが下駄箱を開けた瞬間、あたしが下で構えていた紙袋の中に大量の何かが入った。
それは可愛らしく包装された箱たち。
所謂、バレンタインのチョコレートだ。

『今年も凄い数…。』

お兄ちゃんは下駄箱の中に残ったチョコレートをマイペースに紙袋へと入れた。
何時も通りの微笑みを浮かべながら。
モテるお兄ちゃんにとって、毎年慣れっこな光景なんだろう。

『何通か手紙入ってるけど…。』

不二先輩へ∞不二くんへ
色々な文字で宛名書きがある。
女の子たちはこれをどんな気持ちで書いたのかな。

「帰ったら読むよ。」

『沢山あって大変だね。』

あたしはお兄ちゃんに紙袋を渡した。
中身は何個あるのか、数えるのも面倒臭そうだ。
他にもお兄ちゃんはチョコレートを直接手渡されたり、机の中にも入っていたみたいだし。

『如何するのこれ、食べきれないよ。』

「また去年みたいに姉さんがチョコレートパックするかもね。」

『ちょっと、学校でそれ言わないでよ…!

誰か聞いてるかもしれないでしょ…!』

お姉ちゃんはお兄ちゃんが持ち帰った大量のチョコレートを面白がり、溶かして顔に塗った。
美容に良いんだと主張していた。
折角作ったチョコレートが姉の美容の餌食になっていると知ったら、女の子たちはショックこの上ないだろうな。

「手塚も沢山貰っているだろうね。」

『胃が痛いからそれ言わないで。』

今日という日はあたしにとって精神的に辛い日だ。
国光は沢山チョコレートを貰うんだろうな。
呼び出されて告白されたり、手紙も渡されるんだろうな。
想像するだけで頭が重くなるし、胃痛がする。

『うう、胃が…。』

「あれから愛と手塚は上手くいってるし、心配要らないよ。」

『うーん…。』

事実、上手くいっている。
あたしが海外遠征したりとデートする時間は取れていないけど、放課後に一緒に帰れる日がある。
今日も一緒に帰る約束をしている。
国光は部活を引退し、受験前のシーズンだ。
国光もお兄ちゃんも内申の成績が良く、スポーツ推薦で青学高等部に入学するから、受験前なんてあまり関係ないけど。
あたしは気を取り直した。
落ち込んでなんかいられない。

『じゃあ、渡す人がいるから。』

「うん、わざわざありがとう。

英二にはちゃんと渡しておくよ。」

『宜しくね。』

あたしは菊丸先輩に渡したいチョコレートをお兄ちゃんに預けてある。
お兄ちゃんに手を振り、駆け足で教室へと向かった。
待たせている二人がいる。

『桜乃ちゃん朋ちゃん、お待たせ!』

「愛ちゃん…。」

「ついにこの時間が…。」

二人はやたらと緊張している。
今から越前君にチョコレートを渡しに行くんだ。
あたしが前もって越前君に連絡し、校舎裏で待ち合わせている。
朋ちゃんはLOVEリョーマ様だなんて叫ぶ女の子だから、余裕で越前君に渡すのかと思っていたけど、意外にもその逆だった。
好きな人に渡すのはやっぱり緊張するものなんだ。

『待たせてるから、行こう!』





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