沢山の味方

バス停からあたしの家まで3分もかからない。
その3分の間に電話がかかってきた。
あたしの家は既に見えている。
国光と手を繋いでいたけど、一旦離して貰ってからスマホを取り出した。
国光は立ち止まってくれた。
あたしはスマホの画面を見て、目を瞬かせた。

『珍しい…越前君だ。』

「越前?」

越前君から電話なんて初めてだ。
あたしが国光の目を見ると、頷いてくれた。
それを合図に通話ボタンを押した。

『もしもし?』

《急にごめん。》

『如何かした?

忘れ物でもした?』

越前君もさっきバスを降りたばかりなのに。
このタイミングで電話してくるなんて。

《手塚部長と一緒?》

『うん。』

《じゃあ手短に言う。》

何だか嫌な予感がして、国光の手を握った。
国光は握り返してくれた。

《竜崎に話した。》

『…何を?』

《…バレンタインデーの事。》

―――俺、アンタの事好きになりそう。

あの事を桜乃ちゃんに話した?
あたしが話せなかった事を、越前君が?
あたしは息をするのを忘れていて、浅く息を吐いた。

《聞いてる?》

『う、ん…。』

あたしは国光を見上げた。
国光は目を細め、心配しているようだった。

《俺がアンタの事好きなんじゃないかって竜崎が言うから、ちゃんと振られたって言った。》

『……。』

《竜崎にも言ったけど、アンタは何も悪くないから。》

桜乃ちゃん。
今、何を思ってる?
あたしが話せなかったあの日の事を聞いて、如何思った?

《…アンタに悪い事した。

アンタと竜崎は友人なのに、俺が勝手に話した。》

入学してからずっと、桜乃ちゃんはあたしを気にかけてくれる友達だ。
越前君への恋心も幾度となく相談されてきた。

《俺は恋愛してる場合じゃないからって言っといた。

アンタも竜崎を応援したりしないでいいから。》

桜乃ちゃんは遠回しに振られてしまった。
あたしからも隠し事をされていた。
凄く傷心している筈だ。

《ごめん…謝る。》

『桜乃ちゃんに何時か話さなきゃいけないとは思ってたけど…。』

《…ごめん。》

『大丈夫、ちょっと馬鹿野郎って思ってるだけだから。』

《それ大丈夫じゃないじゃん。》

越前君の声は本当に反省しているように聞こえた。
あたしはまるで独り言のように言った。

『桜乃ちゃんにあの事話すなら話すって言ってよ…。

しかも市民大会があるのに、こんなタイミングで…。』

《…ごめん。》

国光は今のあたしの台詞で全てを察したようだ。
あたしが国光の肩に顔を埋めると、頭を撫でてくれた。

《……今日はサンキュ。》

『いいよ。』

ミクスドは楽しかった。
桜乃ちゃんも越前君とペアを組めて嬉しそうだった。
なのに、越前君から聞いたのは酷い話だった。

《手塚部長と一緒にいる時に、ごめん。

また竜崎と如何なったか、教えて。》

『分かった…またね。』

《…じゃあ。》

あたしが先に電話を切った。
深く溜息を吐き、頭を整理しようと努めた。
国光が頭を撫でてくれる手があたしの心を落ち着かせてくれる。
するとその時、国光とは別の声がした。

「愛と手塚君ー!」

聞き慣れた声だった。
あたしは国光の肩から顔を上げると、住宅街の道に沿ってお姉ちゃんが走ってきた。
国光はあたしを離さないでいてくれた。

「なーにこんな所でいちゃいちゃ――愛?」

お姉ちゃんはあたしの異変に気付いて、眉を寄せた。
あたしは今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。
きっと、物凄く酷い顔だ。

『うう…お姉ちゃーん…!』

お姉ちゃんと言いながらも抱き着いた相手は国光だった。
あたしはついに泣き出してしまった。





page 1/2

[ backtop ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -