テニススクールへ案内

カフェを四人で出た後、バスを使って移動した。
二人掛けの椅子に国光とあたし、越前君と桜乃ちゃんに分かれて座った。
桜乃ちゃんが思い切って越前君を市民テニス大会に誘った時、物凄く驚いた。
バレンタインデーの件は先週の話で、まだ日が浅い。
桜乃ちゃんの勇気を前にしたあたしは心が痛んだ。

―――俺、アンタの事好きになりそう。

何時、桜乃ちゃんに言えばいい?
傷付けない為には、如何したらいい?
考えても考えても、答えが出なくて。
胸が苦しくなるだけだった。

バスに揺られながら、何だか夢見心地なのは気のせいだろうか。
肩に触れている温もりが、張り詰めた心を安堵させてくれる。
ずっとこの温もりに浸っていたい。

「愛。」

『…ん?』

「愛、もうすぐ着くぞ。」

『え…寝てた…?!』

あたしは真っ赤になり、姿勢をビシッと正した。
国光の肩を借りて寝てしまっていたらしい。
真後ろの席には越前君と桜乃ちゃんがいるのに、国光は如何してすぐに起こしてくれなかったんだろう。

『ご、ごめんね、肩借りて…。』

「構わん。」

如何しよう、恥ずかしい。
後頭部に二人からの視線がビシビシと刺さる。

『テニスで眠気覚まししなきゃ…。』

「遅くまでゲームをするからだろう。」

『だって裕太お兄ちゃんが帰ってきたから…。』

帰ってきた裕太お兄ちゃんとリビングのソファーでゲームに白熱したけど、何時の間にか寝落ちていたんだ。
たまにしか帰ってこない裕太お兄ちゃんと遊べるのが嬉しくて、ついはしゃぎ過ぎてしまった。
楽しかったから、後悔はしていない。
寧ろ、今夜も歓迎だ。

バスが目的地に到着し、窓際に座っていたあたしは国光から手を差し伸べられた。
微笑みながらその手を取り、立ち上がった。
何時もなら手を繋いだまま移動するけど、今日は四人で行動している。
寂しいけど、手はすぐに離れてしまった。
ずっと繋いでいたいな。
今日は特に、国光に触れていたい。

バスを降りると、あたしが皆を先導した。
四人でテニスラケットの入ったバッグを持ち、あたしの通い慣れた場所へ向かった。
縦にも横にも大きくて清潔感のある施設は、白塗りの四階建てで、地下の駐車場もある。
此処はあたしが小学生の頃から通っているテニススクールだ。

「わあ、おっきいね!」

『でしょ?』

桜乃ちゃんは大きな外観に目をキラキラさせていた。
何故か裏口に向かうあたしに、国光が尋ねた。

「何故正面玄関から入らないんだ?」

『たまに雑誌の取材に捕まりそうになるの。』

重々しいドアのオートロックに数字キーで慣れた番号を入力し、鍵を差し込み回して解除した。
ピーッと音の鳴ったドアのノブを回し、ググッと引っ張って開けた。

『どうぞ。』

裏口から薄暗く長い廊下を通り、明るいロビーに出た。
テニススクールの生徒がちらほらいる中、あたしは受付に向かった。
照明が明るくて広い受付には、顔馴染みのおっちゃんがいる。
このテニススクールの名札をポロシャツに付けているおっちゃんは、短髪で爽やか系だ。
あたしの顔を見ると、にこっとしてくれた。

「おはよう、不二さん。」

『おっちゃん、おはよう。

今日は四人で予約してるの。』

「不二さんが四人で予約なんて珍しいな。」

おっちゃんはあたしにキーリングに纏められた鍵を渡すと、あたしの隣にいる国光の顔を見た。
幼い頃からあたしを知るおっちゃんは、馬鹿にする訳でもなく、嬉しそうにした。

「随分とイケメンなお兄ちゃん連れてるじゃないか。」

『えへへ。』

自慢の彼氏です。
そう紹介するのは控えたけど、あたしは頬の緩みが止まらなくなった。
国光を見上げて、にやにやしてしまった。




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