テニススクールへ案内-2

顔がにやにやするのを必死で抑えながら、エレベーターに乗り込んだ。
ガラス張りの窓から外の景色を見ながら、四階まで上がった。
エレベーターを降りると、飲み物やお菓子が自販機で売っている休憩所がある。
其処にあるドアを一つ目の鍵で開け、レバーを引いた。
壁のスイッチで照明の電源を入れると、あっという間に室内が明るく照らされた。
整備されているテニスコートが三面、あたしたちの目の前に広がった。
トレーニングルームとロッカールームが隣接していて、既にネットは張られている。
桜乃ちゃんがきょろきょろしながら尋ねた。

「他に人はいないの?」

『貸し切り。』

「ええっ?!

本当に無料で借りてもいいの…?」

『うん、館長にもコーチにも話は通してあるから。』

この最上階はあたしが占領しているようなものだ。
テニススクールの親会社があたしのスポンサーで、三年くらい前に向こうから進んで用意してくれた。
メニエール病で休養していた期間でさえ、誰にも使用されなかったコートだ。
あたしはロッカールームのドアを二つ目の鍵で開けた。
中に入ると、更に男女別に二つのドアに分かれている。

『レディーファーストね。』

先に女性用ロッカールームのドアを三つ目の鍵で開けると、見慣れたロッカールームの電気をつけた。
鏡やドレッサーもあるし、一つ一つのロッカーも大きい。
清掃員さんの掃除が行き届いていて清潔感があるのが、過ごし易い理由だ。
あたしは最も大きなロッカーの前に立ち、普段から持ち歩いている鍵で開けた。
中にはあたしのラケットやスニーカーが置いてある。

『ロッカーは何処でも好きに使ってね。

其処がシャワールームで、此処がお手洗い。』

「あ、ありがとう、広いし綺麗だね…凄いよ。」

『うん、充実してる。

先に着替えてね。』

あたしは其処を出ると、通路で待たせている二人の元へ向かった。

『お待たせ。』

男性用ロッカールームのドアを四つ目の鍵で開けた。
あたしは女性用ロッカールームしか使用しないから、此処には入る機会がない。
専任のコーチくらいしか使用していない気がする。

『イケメンなお兄ちゃんと越前君は此処ね。』

「何だその呼び方は。」

「部長に突っ込ませるとか、流石…。」

あたしは国光からの突っ込みも越前君の呟きも華麗にスルーした。
ロッカールームには入らず、手を伸ばして電気だけをつけた。

『ロッカーもシャワールームもご自由にどうぞ。』

越前君に限っては既にテニスウェアだから、すぐにコートに出てくるだろう。
あたしは国光と越前君がロッカールームに入ったのを見届けると、女子用ロッカールームへ向かった。
ロッカーを開け、私服からテニスウェアに着替えた。
壁にあるキーボックスを開け、鍵を片付けた。
キーボックス自体にもオートロックがかかっていて、数字キーで暗証番号を入力しないと開かない。
このテニススクールは警備が厳重だから、生徒は安心して通えるんだ。
あたしはシュシュで高めに髪を括り、ラケットケースを持った。

「愛ちゃん、私ね…。」

『ん?』

準備が整ったあたしに、桜乃ちゃんは頬を染めながら言った。
あたしは本能的に桜乃ちゃんの台詞を聞くのが怖くなった。

「リョーマ君の事…少し頑張ってみようと思うんだ。」

心臓が一度大きく鳴り、息が詰まった。
桜乃ちゃんが勇気を出して今日という日を迎えたのが分かる。
だからこそあたしは、好きになりそうだと越前君に言われた事を余計に話せないんだ。

「愛ちゃんと手塚先輩を見てると、幸せそうで…。

だから今日はリョーマ君と少しでも仲良くなりたい。」

あたしは精一杯頷いた。
越前君を心から想う桜乃ちゃんを応援したい。
こんなあたしでも、応援する資格はあるだろうか。



2017.9.6




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