喜べないサプライズ

跡部に後押しされ、俺は日本代表選抜合宿を離脱した。
プロになる為に、ドイツへ行く。
来年にしようと思っていたが、前倒しとなった。
それを愛に伝えなければならないのだが、愛と音信不通になってから既に三日が経過している。
U-15国別対抗戦の結果を見ると、愛は確かに出場していたし、全てストレートで圧勝している。
試合動画を観たが、元気にしているようだった。
今日勝利すれば、決勝戦へ進む。
敗北したとしても、三位決定戦へ進む。
愛と逢えるまでは最低でも三日は要するだろう。
ドイツへ行くのは愛と直接逢って話してからにしようと思っている。
チケットを取るのはそれからだ。

「国光。」

「お爺様。」

夜のリビングでスマートフォンを睨んでいると、お爺様が歩いてきた。
俺はポケットにスマートフォンを片付けた。
お爺様は上機嫌に見える。

「これをお前に渡そう。」

手渡されたのは、ドイツ行きの航空券だった。
日付は三日後になっている。
俺は目を見開き、息を呑んだ。

「空港で航空券を発行しておいた。

ドイツのホテルも予約しておいたぞ。

どうじゃ、驚いたじゃろう。」

お爺様は得意げに話している。
俺の為のサプライズだったのだろう。
しかし、今の俺は喜ぶ事が出来ない。
三日後に愛と入れ違いになる可能性がある。

「国光、如何かしたか?」

「…っ、いえ、ありがとうございます。」

動揺を隠せず、お爺様に頭を下げてからその場を去った。
自室に戻り、ドアを無造作に閉めた。

「……。」

ドアを背に、その場に座り込んだ。
愛に何も説明出来ないまま、ドイツへ発つ事になるかもしれない。
お爺様が渡してくれた航空券を確認した。
キャンセルする手もあるが、キャンセル料がかかる。
しかし、折角のお爺様の好意を無駄には出来ない。
愛ならきっと理解してくれるだろう。
その時、ポケットの中でスマートフォンが振動した。

「…!」

慌ててそれを手に取ると、着信画面に不二周助の名前があった。
俺は素早く応答した。

「もしもし。」

《もしもし手塚、僕だよ。

愛の音信不通の理由が分かったんだ。》

「何だったんだ?」

《スマホを水没させたらしい。》

水没。
ドジな愛らしい理由だった。

《僕が直接愛と話した訳じゃないんだ。

誰かのスマホを借りた愛から家に電話がかかってきて、姉さんが出た。

姉さんは愛に僕の番号を教えておいてくれたみたいだよ。》

「そうか…。」

俺がドイツへ向かう事はまだ伝わっていない。
直接話したい。

《僕に電話がかかってきたら、君の番号を教えておくよ。》

「ああ、頼む。」

《早く愛と話した方がいい。》

不二の声は何処か緊迫しているように聞こえた。
何故急かすのか、この時の俺には分からなかった。



2017.6.24




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