たるんどる意識

スマホを水没という名の池ぽちゃしてしまった。
案の定、故障してしまった。
画面も真っ暗、音も一切鳴らない。
充電器を差したりぺしぺし叩いたり、色々試してみたものの、全て無駄だった。

『次にスマホ買うときは絶対に防水機能付きにしてやるー!』

午前中の第1試合を無事に終えたあたしは、ホテルの部屋でスマホをベッドに向かってぶん投げた。
ぼふっと間抜けな音がした。
試合結果は日本の勝利で、あたしも先発のシングルスで完勝した。
試合中はテニススイッチが入り、スマホ水没の件を頭から放り投げ、何とか集中出来た。

『こんな時に限ってタブレットを家に置いてくるなんて…!』

第3試合で日本が負けると予想していたあたしは、タブレットと持ち運びWi-Fiルーターを家に置いてきてしまった。
タブレットがなくても、3DSがあれば満足に遊べると思ったからだ。
もしタブレットとWi-Fiルーターがあれば、ダウンロードしてあるコミュニケーションアプリから国光に連絡出来たのに。

『たるんどる!』

国光の知り合いである真田さんの声真似をした。
全然似ていなくて、余計に虚しくなった。
コーチからスマホを借り、実家に電話したけど繋がらなかった。
留守電にすらならなかった。
国光やお兄ちゃんたちの番号も覚えていない。
国際電話が出来る公衆電話を探したけど見当たらなかった。
ホテルから国際電話がかけられるけど馬鹿みたいに高くて、多めに所持金を持ち合わせていないのを後悔した。
帰国したら、携帯ショップに行き、更に代替機を借り、家のマイノートパソコンからデータをバックアップするという面倒な作業が待っている。

『あり得ない…。』

明日、コーチからもう一度スマホを借りよう。
そう簡単に連絡を諦めてたまりますか。
何よりも国光やお兄ちゃんたちの合宿の経過が気になる。
もう脱落していないだろうか。
今年の合宿メンバーは化け物のオンパレードだ。
国光と周助お兄ちゃんはきっと問題ないけど、裕太お兄ちゃんは危ういかもしれない。

『国光…心配してるかな…。』

ベッドにダイブし、ぽつりと呟いた。
水没する前にスマホの画面は見れなかったけど、あの電話はきっと国光だったんだ。
再びスマホを手に取り、ボタンを押したり本体を振ったりしてみるけど、無反応。
スマホの音声アシスタント機能に声をかけてみる。

『Hi, Silly!』

やっぱり無反応。
希望は打ち砕かれた。
独りぼっちで涙が滲む。
明日、実家に電話が通じるのを祈るしかない。



2017.6.24




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