隣のイケメン

最近、国光は色々と積極的でスキンシップが多い。
あたしは寿命が縮むかと思うくらいドキドキさせられている。
今後は年末まで逢えなくなる時間が増えるし、触れたいと思うのはあたしも同じだ。
でも、今までとは違う濃厚なキスに戸惑うあたしがいて、国光も男の子なんだと実感する。

『国光、如何しよう…。』

「?」

お昼休みの図書室で国光と隣同士、小テストの勉強をしている。
あたしはノートの上にペンをべしっと置き、左隣で洋書を開いている国光をガン見した。
勉強している人が周りにいるから、小声でひそひそと話した。

『隣にイケメンがいるから勉強に集中出来ない。』

因みに、あたしの右隣には誰もいない。
国光は如何反応していいのか分からないらしく、黙ったまま眉を寄せた。
折角国光と一緒にいるのに、勉強を教えて欲しいだなんて強請るんじゃなかった。
校舎裏でブルーシートを敷いて、手を繋ぎながらお話する方がよっぽど楽しい。

「隣に美人がいるから読書に集中出来ない、と言ったらお前は如何反応する?」

『?!』

真っ青になったあたしは慌てて国光の向こう側を見た。
誰も座っていないから、拍子抜けした。
国光は溜息を吐き、洋書に栞を挟んで閉じた。

「無自覚過ぎる。」

『え?』

国光の呆れた表情に、あたしは小首を傾げた。
すると、あたしのノートに国光が字を書き始めた。
お前は美人だ、自覚しろ

『は?!』

「静かにしろ。」

静かな図書室で、あたしは慌てて口を噤んだ。
ノートに字が残るのを分かっているんだろうか。
実に恥ずかしい事をしてくれるではないか。
此方も負けてはいられない。
お気に入りの猫のシャーペンを取り、お得意の字を書いた。
国光だってイケメンだよ、自覚あるの?
自分をそのように思った事はない

『……。』
「……。」

無言で見つめ合う、というより睨み合う。
国光は再びシャーペンを走らせた。
俺が美人だと思うのはお前だけだ

『…?!』

顔が一気に熱くなった。
これは暖房のせいじゃない。

「…しっかり覚えておけ。」

否定を許さない台詞に、小刻みに頷いた。
最近の国光はやっぱり積極的で、あたしの寿命を縮めにかかっている。
如何かしたのか、聞いてみてもいいかな…。
右手でシャーペンを器用にくるくる回し、再び字を書いた。
最近すごく積極的よね?

「!」

会えなくなるのがさみしい?
国光は目を細め、あたしの文章をじっと見て動かない。
これは肯定だ。

「嫌なら…やめる。」

『嫌じゃないよ、前に言ったよね?』

―――お前は俺に触れられるのは嫌か?

―――そんな訳ないよ、国光なんだから。

その時、チャイムが鳴った。
これは予鈴だ。
教科書とノートを慌てて纏め、筆箱と一緒に持った。
国光も洋書を持ち、二人で席を立った。

『今日もテニススクールに行くつもりだから、一緒に帰れない。』

「行くのか?

今朝帰国したばかりだろう。」

廊下を歩きながら、あたしは俯いた。
国光との時間とテニススクールを天秤にかけ、あたしは一人で混乱した。
こうやって思い悩むと、目眩が来るような錯覚がして、少し怖くなる。

「愛。」

隣を歩いていた国光が立ち止まり、あたしの右手を取った。
背の高い国光を見上げると、大切な人の端整な顔があたしに向けられていた。

「今日は休んだ方がいい。」

心配してくれている。
身体を酷使すれば、また体調が悪くなるかもしれない。

「部活が終わったら、お前との時間が欲しい。」

少しでも長く一緒にいたい。
あたしは頷いた。
二人で話す約束をすると、教室へと戻った。



2017.6.10




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