久し振りの試合へ

3限目が終了すると、俺はすぐに教室を出た。
階段を心持ち早足で降り、学校の裏門へと急いだ。
其処にいる筈の恋人の姿を探すと、すぐに見つかった。
帰宅する直前の愛に裏門で待っていて欲しいとメッセージを送ったのは、つい先程だ。

「愛!」

『国光、如何したの?』

4限目までの休憩時間は10分しかない。
それでも、今からアメリカへ発つ愛の姿を一目見たかった。

「見送りたかった。」

『ふふ、ありがとう。』

愛のテニスバッグにはイルカのキーホルダーが揺れている。
渡した翌日から付けてくれている。
因みに、俺のバッグにも付いている。
菊丸から随分とからかわれた。

『ちゃんと連絡するよ?』

「そうしてくれ。」

『ちゃんとスマホの料金プランは海外向けにも入ってますから。』

愛は俺の顔を覗き込み、怪しげに微笑んでみせた。
俺への皮肉だった。
あの時は申し訳なかったと思う。
次にドイツへ行く時は、必ず海外向けのプランに加入する。

「無我の境地だけは絶対に使うな。

身体に負担が掛かる。」

『極みシリーズは使わないから。』

俺は頷くと、愛の肩に左腕を回した。
他人の姿がない裏門で、ほんの少しだけ抱き合った。
愛の髪から優しい香りがする。

「無理はするなよ。」

『約束する。』

身体を離し、愛が数歩下がった。
名残惜しいのか、背中を見せようとしない。

『行ってきます。』

「油断せずに行ってこい。」

『うん!』

愛は可愛らしい笑顔を残し、バス停へと去っていった。
俺も早々に踵を返し、教室へと向かった。
次に逢えるのは何時になるだろうか。
愛はトーナメントを確実に勝ち上がるだろう。
勝ち残ればその分試合数は増え、必然的に身体にも負担が増える。
何事もなく終わるように、俺は日本から祈るしか出来ない。



2017.6.5




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