貴方のお陰-2
レジャーシートの上で改めて向き合った。
柔らかい風があたしたちの髪を揺らし、木漏れ日が少しだけ眩しい。
国光が二つ目の大事な話を切り出した。
「プロになりたいと思っている。」
『うん。』
「驚かないのか?」
あたしは首を横に振った。
驚かないよ。
国光ならそう考えていると思っていたから。
『随分と前からそう考えてたんでしょ?
あたしに言えなかっただけで。』
「…お前はお見通しだな。」
あたしは悠然と微笑んでみせるけど、国光は真剣な表情を崩さない。
「卒業するまでに、もう一度ドイツへ行こうと思う。」
『いいと思うよ。』
国光が左肩を完治させ、テニスが出来る喜びを感じているのを知っている。
だから、存分に楽しんで欲しい。
「その間、待っていてくれるか?」
『大人しく待ってるよ。』
「ありがとう。」
再び国光の手があたしに伸ばされた。
あたしはレジャーシートに手をつき、自分から国光に近寄った。
短いキスをすると、お互いに微笑み合った。
人が来るといけないから、二人で木に背を向けて肩を触れ合わせながら座った。
国光に手を握られたから、そっと指を絡めて握り返した。
『あたしたちってこれからもこういう恋愛なのかもね。』
「こういう恋愛?」
『遠距離みたいな恋愛。』
遠距離恋愛のようで、そうじゃない。
物理的に遠くなったり近くなったりを繰り返しながら、絆を深めていく。
あたしは海外遠征が多いし、今後も学校を留守にする事があるだろう。
国光は怪我の療養でドイツや九州へ行ったし、もう一度ドイツへと単身渡る予定だ。
逢えない日が多くて当然の恋愛。
「寂しいか?」
『寂しいけど、その分逢えると嬉しいよ。』
国光が卒業すれば、学校も別々になる。
今よりもっと逢えなくなる。
だから、逢える時間を大切にしたい。
自然と目が合って、見つめ合った。
「お前を家族に紹介したい。」
『心の準備が出来たら…。』
「何時だ?」
『うーん、来年かな?』
へらっと笑ってみせると、不意打ちのキスを食らった。
顔が熱い。
今、絶対に真っ赤になっている。
『…学校なのに。』
「先月、体育館裏でお前が――」
『ストップストップ!』
あの甘いキスを思い出した。
あの時、夢中で強請ってしまった。
そう、学校なのに。
『えっと…ごはん後だから、ね?』
「如何だろうな。」
『な、何それ。』
何だか悔しい。
国光の耳元に手を遣り、眼鏡のフレームを上下に揺さ振ってやった。
シュールな光景に思わず吹き出してしまった。
無表情の国光はあたしの両手首を取り、あっという間にあたしの唇を奪った。
2017.6.5
←|→