スマホの悲劇-2

国光と電話をした翌朝。
空港へ向かったあたしはデンマークへの直行便に乗り込んだ。
首都コペンハーゲンにある国際空港まで約12時間のフライトだった。
デンマーク語なんて分からないから、通訳アプリを利用しながらタクシーを呼び、予約しているホテルまで向かった。
煉瓦造りの家が立ち並ぶ優雅な通りにお洒落な街灯が光を灯し、あたしの心を浮き立たせた。

大会会場の練習用コートはとても充実していた。
あたしの後から会場入りしたコーチと一緒に、連日に渡ってハードな練習メニューをこなした。

そして、翌日に第1試合を控えた夜。
ホテルの部屋にあるお風呂に入った後、大きなベッドに寝転びながらスマホを手に取った。
デンマーク用に合わせた時計を見ると、夜の9時。
日本は8時間進んでいるから、朝の5時頃。
あたしはコミュニケーションアプリを開き、国光とのメッセージを見返した。

―――――
今日、海堂と試合をした。
―――――
あの次期部長候補の海堂先輩?
フルボッコにしたの?
―――――
7-0だった。
―――――
フルボッコ\(^o^)/
―――――

国光が海堂先輩をフルボッコにしている絵ヅラが頭に浮かぶ。
あと少しすれば、国光は合宿所で目を覚ますだろう。
四人部屋らしいけど、なんとにこにこしている方のお兄ちゃんと同じ部屋割りなんだとか。
あたしは一人で笑顔になった。
お兄ちゃんが国光を何かとからかっている絵ヅラが浮かんだからだ。

『小腹空いた。』

ベッドから立ち上がり、トレンチコートを着てからホテルの部屋を出た。
デンマークも日本と同じ、季節は冬だ。
日本より寒いから、マフラーも欠かせない。
ホテルの一階にあった売店でチョコレートを買うと、外に出た。

『寒…っ。』

大会会場から車で10分程の距離にあるこのホテルは、ヨーロッパの古い建造物らしく、昔ながらの風格あるホテルだ。
赤を基調としたロビーは凄く煌びやかで、何処かのご令嬢にでもなった気分にさせてくれる。
チョコレートをもぐもぐしながらホテルを眺め、観光がてら軽く散歩しようと思った。
ぶらぶらとマイペースに歩いていると、川面に反射する光が見えた。
川、かと思えば水路だ。
年季の入ったボートが所々に浮かんでいる。
其処を沿うように歩いていると、緑の多い公園が見えた。
公園内には円形の池があるけど、水路から水を引いているのかもしれない。
ヨーロッパの公園を見ると、日本の公園の狭さを実感する。

『!』

トレンチコートのポケットに入れていたスマホが振動した。
きっと、国光だ。

『きゃ…!』

歩きながらスマホを取ったのが悪かった。
誰もいない公園で一人、前につんのめった。
宙に舞う大事なスマホ。
それをキャッチしようとするあたし。


―――ぽちゃん…


異様な音だった。
あたしにはこの世の終わりの音のように聞こえた。
一歩踏み出して転倒を免れたあたしは、片手を伸ばしたまま唖然とした。
深い池の底にスマホが沈んでいく。
これが本当の……池ぽちゃ。



2017.6.19




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