二人の身長差-2

愛は俺の肩口に額を擦り付けると、俺を見上げてきた。
街灯の光が愛の瞳を幻想的に見せる。

『国光。』

俺の名前を間近で呼ぶ愛の声が心地良い。
返事の代わりに一度だけ瞬きをすると、それを理解している愛が話し始めた。

『お昼に話した内容の事だけど。

あたし、嫌じゃないよ。』

―――お前は俺に触れられるのは嫌か?

あの事か。
最近積極的だと指摘され、嫌になってしまったのかと勘繰ってしまった。

『勘違いしないで。

ちょっと寿命が縮みそうなだけなの。』

「…寿命?」

『な、何でもない。』

視線を泳がせる愛の柔らかな髪を撫でた。
指通りの良さを堪能していると、愛が俺の顔を覗き込んだ。

『国光って背高いよね、何cm?』

「179cmある。」

『わお。』

身長は高い方だが、乾のように180cm超えの生徒もちらほらいる。

「お前は?」

『155です。』

愛はきょろきょろと周囲を見渡すと、俺の手を引いた。
青色のペンキで塗られたジャングルジムの前で止まったかと思うと、俺に背を向けて一段分だけ登った。

「愛?」

『受け止めてね?』

「!」

愛は足場をそのままに、身体を慎重に反転させた。
手を広げて此方に傾いた愛を、俺は慌てて抱き留めた。

「危ないだろう…!」

ただでさえドジだというのに。
ジャングルジムに登れば滑り落ちるイメージしか湧いてこない。
俺の心配など素知らぬ様子で、愛は俺の首元に腕を回して抱き着いている。

『これであたしの方が上になったね。』

二人で視線を合わせると、愛が俺を見下ろしていた。
10cm程の差だろうか。
慣れない感覚のまま愛を抱き寄せている。

『不思議な優越感がする。

もう一段上がっていい?』

「危ないからやめてくれ。」

今すぐにでもジャングルジムから降ろしたいというのに。
愛は楽しそうな笑顔を見せている。
俺の頭に片手を置き、子供をあやすかのように撫で始めた。

『よしよし、国光。』

「……。」

『ごめんごめん、そんな無表情しないで。』

明らかに楽しんでいる。
調子に乗る愛の身体を一層抱き寄せ、その唇を掬い上げるように塞いだ。

『…っ!』

肩が小さく跳ねた愛が逃げないように、片手をその後頭部に遣って引き寄せた。
空いている手は華奢な腰にしっかりと回している。
一度唇を離し、愛の頬に手を添えた。
見上げる感覚も新鮮だが、愛が滑り落ちる前に降ろしたい。

「そろそろ降りろ。」

『ん、もうちょっと…。』

「駄目だ。」

もし仮に滑り落ちたとしても、必ず受け止めるつもりだが、捻挫でもすれば一大事だ。
しかし、愛が顔を寄せてきたのを見ると、自分の欲に抗わずに口付けた。
息継ぎのタイミングで愛の背に両腕を回し、易々と抱き上げた。

『わ…!』

ジャングルジムから足が離れた愛は、大人しく地に足を降ろした。

『楽しかったのに。』

「大人しくしていろ。」

言い慣れてしまった台詞だった。
愛は俺を軽く睨むと、その次には背伸びをした。
求められているのが分かると、それに応えた。
触れ合うだけの口付けを繰り返していると、愛が言葉を零した。

『嫌じゃなくて…その、嬉しいよ。』

照れ臭そうに話す愛は、俺の背中に回している手に力を込めた。

『だからもっと――っ、ん…!』

愛の開かれた唇に舌を滑らせ、台詞を遮った。
これ以上聞くと、何かが脆く途切れてしまう気がした。
愛が成人するまでは健全な交際をする≠ニいう信念を曲げたくはない。
時間が容赦なく過ぎていく中、二人で息を荒げながら口付けを続けた。



2017.6.15




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