全面協力

シルバーに協力を約束した直後。
ダイゴは限られた関係者しか立ち入れない情報保管室へと脚を運んだ。
其処から取り出した分厚いファイルに整然と挟まっていたのは、カナズミシティの様々な建造物に関する重要資料だった。
その次に、ダイゴはデボンコーポレーションが開発した商品の試供品が保管されている部屋に入った。
役立ちそうな物を紙袋に突っ込み、書斎に戻った。
誰にも見られないようにするのは、とても神経を使った。
シルバーがデボンコーポレーションを訪れているという事実は、この社内でダイゴの父親しか知らない。
その父親でさえ、シルバーとダイゴが何の為に逢っているのかを知らないのだ。

そして現在。
書斎の広いテーブルに数枚の紙が広げられ、シルバーとダイゴはそれを見ていた。

「カナズミシティにはデボンコーポレーションが資金面で協力して建築した建造物が多いんだ。」

建設の資金面での援助に関する詳細や、工事期間などのデータが詳細に記されている。
ダイゴが探していたのはカナズミ市民ホールと宿泊施設の建築図面だ。

「これだね。」

それらを何枚も並べて置き、シルバーも確認するように視線を落とした。
カナズミ市民ホールにも宿泊施設にも、様々な避難経路がある。
職員専用の避難経路もあり、二人は其処から侵入しようと企んでいた。

二人はこれらの資料を元に、綿密な作戦を計画した。
シルバーのポケモンたちと、ダイゴのメタグロスもそれを聴いていた。
この作戦にはポケモンたちの協力も不可欠だからだ。
ありとあらゆる局面に備え、抜け目のないように計画した。
決行する時間は人の移動が少ない深夜が望ましいが、シラヌイがカナズミシティに現れる時間にも左右される。
日付を跨ぐのは間違いなさそうだ。
作戦を完璧に記憶したダイゴは、一人掛けのソファーに腰を下ろしながら言った。

「小夜ちゃんにも作戦を話そうか。

記憶を削除するのは小夜ちゃんだしね。」

記憶削除はこの作戦の最後の一手となる。

「電話します。」

シルバーは左手首のポケナビを操作し、テーブルに置いてから小夜を呼び出した。
既に時刻は午後の二時を回っている。
短い呼び出し音の後、小夜が応答した。

《もしもし?》

「小夜、俺だ。」

《シルバー、待ってたの!》

小夜の嬉しそうな声が、シルバーへの純粋な好意を物語っていた。
ダイゴはふっと小さく笑った。

「小夜ちゃん、僕もいるよ。」

《ダイゴさん、お久し振りです。》

「うん、久し振りだね。」

“俺たちもいるよー!”

マニューラがシルバーの前でぴょんぴょん跳ねながら言った。
シルバーは騒々しいマニューラの首根っこを掴み、オーダイルに渡した。
オーダイルはマニューラをガシッと脇に抱えた。
御主人たちは今から真剣な話をするんだから静かにしよう、と説得した。
シルバーはしゅんとしたマニューラの頭をくしゃりと撫でてから、ポケナビに向かって言った。

「記憶削除までの流れを考えた。」

《教えてくれる?

あ、その前にオーキド博士も呼んでいい?》

「そうしてくれ。」

ポケナビからぱたぱたと足音が聴こえた。
小夜が四階の自室から二階の研究室に移動しているのだ。
ダイゴはオーキド博士と話す前に、気を引き締め直した。
シルバーとダイゴが少しの間だけ待つと、小夜とは別の声がした。

《やあ、シルバー君、ダイゴ君。

待たせたかな?》

オーキド博士の声は相変わらず朗らかで、寛大さが滲み出ていた。
シルバーは世話になっている博士に言った。

「博士、無事にデボンコーポレーションに到着しました。」

《小夜から聴いておったよ。

長旅御苦労じゃった。

ダイゴ君、シルバー君を迎えてくれて感謝しておるよ。》

「何時でも歓迎しますよ。」

オーキド博士が言っていた通り、シルバー君は聡明で頭の回転の速い青年でした。
ダイゴはそう主張するのをやめておいた。
シルバーが反応に困ると思ったからだ。

「シルバー君と一緒に一連の流れを計画したので、博士も聴いて下さいますか。」

《うむ、話してくれ。》

シルバーとダイゴは共に話し始めた。
作戦の流れを事細かに話したが、小夜もオーキド博士も静かに聴いていた。
口出しする事なく、二人によって計画された綿密な作戦に同意した。
全てを聴き終えた小夜は感謝を口にした。

《ダイゴさん、本当にありがとうございます。》

「いいんだよ。」

《わしからも君に感謝しよう。》

「寧ろ、協力出来て光栄です。」

この作戦に協力する事で、小夜や無数のポケモンたちを危険から守る事が出来る。
そしてこの作戦はダイゴがいなければ成し得ないのだ。
オーキド博士もシルバーも、ダイゴに協力を仰いで良かったと思っている。
オーキド博士が穏やかな声色でダイゴに言った。

《成功したら、何か御礼をしたいものじゃな。》

「御礼…ですか。」

ダイゴは顎に手を添え、考えた。
シルバーから視線を感じながら、躊躇いがちに尋ねた。

「小夜ちゃんの事をもっと教えて欲しいです。

ただの好奇心ではなく、力になりたいんです。」

複雑な境遇を持つ小夜の力になりたい。
心からそう思っている。
今回のように、力になれる事がきっとある筈だ。
シルバーは小夜とオーキド博士の反応が目に浮かんだ。
きっとオーキド博士は小夜の表情を窺いながら、慎重になっているだろう。
そして、小夜は無表情だろう。
沈黙が落ちたが、其処に小夜の凛とした声が通った。

《時期が来れば、お話するつもりでした。

シルバー、いい?》

シルバーは浅く息を吐き、暫し黙考した。
小夜の言う時期≠ニは、予知夢を乗り越えた二週間後になる。
そして、小夜の話をするという事は、シルバーの境遇を必然的に話す事になるだろう。
小夜とシルバーとの間には、切ろうとしても切り離せない繋がりがある。
ロケット団という名の繋がりだ。

《ダイゴさんなら受け入れてくれるよ、シルバーの事も。》

ダイゴはシルバーの神妙な横顔を見つめた。
シルバーは目を閉じたまま、静かに口角を上げた。
あの小夜が此処までダイゴを信用するなら、きっと問題ないだろう。
ダイゴが二人の話を受け入れてくれた日には、ホウエン地方を旅する為に、ダイゴのプライベートジェットに乗せて貰うのだろうか。
シルバーは遠い目をしながら、そんな事を考えた。





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