謝罪後の提案

―――また、話聞かせてね。

桃城宅から帰る時、華代にそう耳打ちされた。
すっかり暗くなってしまった空の下で、手塚先輩に家まで送って貰っている。

『華代ってば…。』

独り言のようにぽつりと呟いた。
また今度、華代と話しに行こう。
電話もしよう。
華代はあたしが抱え込み易いと言うけど、華代だって抱え込んでいる。
それを一番に聞いてあげられるのは、あたしだ。

「愛。」

『あ、はい?』

「今日はすまなかった。」

『?』

隣を歩く手塚先輩を見上げる。
真っ直ぐに見つめられると、顔が熱くなるのが分かった。
すると、手塚先輩の右手があたしの左手を握った。
頭が沸騰しそうになるのを必死で抑えながら、一回り大きな手を控えめに握り返した。

『えっと…何に謝られているのか分からないんですが…。

寧ろあたしの方が手塚先輩に謝ります。

急に華代に逢って貰って、それにこんなに遅くなってしまって、ごめんなさい。』

「いいや、構わない。

お前の事を知るいい機会になった。」

今、物凄くリア充な会話をしている気がする。
遅くまで付き合わせてしまった彼女と、別に構わないと言う彼氏。
更にはあたしの事を知る機会になった、だなんて。

「それよりも、俺がお前に謝らなければならない。」

謝らなければならない?
その片言みたいな台詞で余計に混乱する。

「桃城の事を勘違いしてしまった。」

『勘違い?』

「ああ、そうだ。」

『如何いう風に勘違いするんですか?』

「……。」

『?』

手塚先輩があたしから視線を逸らし、黙り込んでしまった。
あたしはじっと手塚先輩の目を見つめる。

「……お前と桃城が――」

『はい。』

「――お前と俺のような関係なのかと疑ってしまった。」

手塚先輩とあたしは恋人同士。
つまりは桃先輩とあたしが…。

『ええっ?!

いやいやいやあり得ませんから!』

全力で否定した。
桃先輩は親友のお兄さんで、たまに格ゲーのネット対戦をするくらいだ。
それ以外の何でもない。
あたしは手塚先輩一筋です。

「お前が桃城と電話をした時、きつく言ってしまった。

すまなかった。」

『気にしてませんから、手塚先輩も気にしないで下さい。』

―――桃城とは如何いった関係だ?

―――不二妹と呼ぶように言っているのを聞いた。

確かにあの時の手塚先輩は腕を組んで見下ろしてきて、ちょっとだけ怖かった。
何時もより更に表情が硬かった気がした。

『あれ…?

それってもしかして。』

「何だ。」

『……焼きもち?』

「………。」

『………ご、ごめんなさい。』

まさか、あの手塚先輩が焼きもち?
それこそあり得ない。
お兄ちゃんが突然「裕太の髪型にしてくるよ」と言い出すくらいあり得ない。
失礼な事を言ってしまった。

「そうかもしれないな。」

『え。』

「お前の事になると、冷静でいられなくなる。」

胸が煩いくらいに高鳴った。
眼鏡の奥にある瞳があたしを真っ直ぐに見つめている。
このまま時間が止まればいいのに。
あたしはこんなにもドキドキしているけど、手塚先輩は如何なんだろう。

「一つ提案があるんだが。」

『何でしょう?』

以前、家まで送って貰った時は敬語を外して欲しいと言われた。
次は一体何だろうかと身構えてしまった。

「今度、俺と出掛けないか?」



2016.12.11




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