桃城武の妹-2
嬉しそうに笑顔を見せる桃城兄妹を前に、あたしは困惑を隠せない。
華代にこんな事を言わせるつもりなんて微塵もなくて、ただ手塚先輩に華代を紹介したかった。
桃先輩と隠れて話す理由を知って欲しかった。
手塚先輩の顔を窺うと、お互いの目が合った。
あたしが困ったように微笑むと、静かに頷いてくれた。
桃先輩が感激で紅茶を一気飲みする隣で、華代が手塚先輩に言った。
「愛の話もさせて下さい。」
『?』
何を言うのだろうか。
一瞬だけ凄く不安になった。
「手塚さん、愛はとても抱え込み易いんです。
急に失明した私の事を話せないでいます。
恋人の貴方にも言えなかったんです。」
「げふっ…!」
桃先輩がむせた。
まるであたしのように大袈裟にむせると、手塚先輩とあたしを交互に見た。
普段のあたしなら照れ臭くなってはにかむ場面だけど、今は無理だ。
「こっ、恋人?!」
桃先輩が未だに若干むせながら言った。
でも、華代は動じない。
「私は目が見えなくなって、テニスもゲームも愛と一緒に出来なくなってしまいました。」
『華代…。』
華代がそんな風に考えていたなんて。
親友の事なのに知らなかった。
胸が苦しくなって、目が潤んだ。
「でも、手塚さんは愛の傍で色々な事が出来ますから…。」
手塚先輩は真っ直ぐに華代を見ている。
まるで一言も聞き逃さないようにしているみたいだ。
「愛の親友として、言わせて下さい。
愛を宜しくお願いします。」
「ああ、分かった。」
何だこの話の内容は。
手塚先輩も分かっただなんて言うし。
『ちょっと…華代!』
「何?」
華代は嬉しそうに微笑んでいる。
如何して天使のように微笑んでいるんだろうか。
兎に角、言い訳しなきゃ。
『あたしは華代の事を抱え込んでなんかないよ!』
「でも実際は手塚さんにお兄ちゃんと話してたのを気付かれちゃったよね?」
『確かに気付かれちゃったけど!』
「気付かれちゃったって事は、隠してたんでしょ?
それって抱えている事になると思うの。」
『う、うんん…?』
首を傾げながら、なんだか曖昧な返事をしてしまった。
抱えているつもりはないし、それは嘘じゃない。
手塚先輩からの視線がやたら痛い。
華代がふんわりと穏やかに言った。
「こんなに素敵な人が傍にいてくれるんだから、独りで突っ走らないで。
もっと頼らなきゃ、ね?」
『……うん。』
天使の微笑みに敗北した。
ちらりと手塚先輩を見ると、やっぱりこっちを見ていた。
途端に恥ずかしくなり、熱くなった顔を隠そうと俯いた。
目を丸くする桃先輩が手塚先輩とあたしを交互に見ている。
「部長と愛ちゃんかー…。
確かにお似合いだな。」
『え。』
「私も愛の初めての彼氏の顔、見てみたいな。」
『ちょっと。』
その後、あたしは華代と桃先輩からいじられた。
まだ敬語なのか、とか。
どんな所が好きか、とか。
口籠ってばかりで恥ずかしかったけど、桃城兄妹公認の仲になれて幸せだった。
2016.12.7
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