桃城武の妹

桃先輩とは如何いった関係なのかを迫ってきた手塚先輩に、華代を逢わせようと決意した。
華代に電話をすると、是非一緒においでと言ってくれた。
一緒に帰る予定だった桜乃ちゃんに断りを入れてから、手塚先輩と桃城宅へ向かった。
隣同士で道を歩きながら、手塚先輩に華代の事を少しだけ説明した。
華代は小学校以来の大事な親友であり、簡単には話せない事情がある、と。

『えっと、それでですね。』

そして今、桃城宅のリビングでダイニングテーブルを囲っている。
あたしの隣には手塚先輩、前には華代。
華代の隣にはやたらと緊張気味な桃先輩。
確かにこのオーラを放つ部長が突然家にやってきたら驚くだろうな。
一方の華代は落ち着いた様子だった。

『華代、話していい?』

「いいよ、勿論。」

『そっか……えっと、手塚先輩。

あのですね、気付いたかもしれませんが…。』

華代の事を人に言うのは初めてだ。
手塚先輩はあたしの目をじっと見ている。
緊張してもごもごと口籠っていると、華代が微笑んだ。

「愛、ありがとう。」

『え?』

「本当に話してないんだね。」

何を、誰に?
あたしが目を瞬かせると、華代は続けた。

「手塚さん、私は目が見えないんです。

先月に失明したばかりで、原因は分かっていません。」

『華代…!』

華代は盲目になった事を人に打ち明けるのはこれが初めての筈だ。
あたしは勢い余って立ち上がりそうになった。
それでも華代は落ち着いているし、手塚先輩も何時ものポーカーフェイスだ。

「一つ、謝らなければならない事があります。

お兄ちゃんが部活の朝練を遅刻する時があると思います。

それは学校に行きたがらない私を学校まで送ってくれているからなんです。」

「おい華代、急に何言ってんだよ!

兄ちゃんは遅刻なんかしてねぇって!」

「私知ってるんだから。」

焦りに焦る桃先輩はあたしの目を見た。
そう、あたしが以前、華代に話したんだ。
華代の通う特別支援学校と青学は桃城宅から真逆の方向にある。
桃先輩は遅刻せず朝練に間に合っていると華代に説明しているらしいけど、それは違う。
あたしは桃先輩が遅刻のせいで手塚先輩からグラウンドを走らされているのを知っている。
手塚先輩は眉を寄せた。

「そうなのか、桃城。」

「う…。」

桃先輩は手塚先輩からの視線に耐え兼ね、顔を真っ青にしている。

「お兄ちゃんの遅刻は私のせいなんです。

本当にすみませんでした。」

華代が頭を下げた。
桃先輩もあたしも居た堪れない気持ちになった。
華代にこんな事を言わせる為に手塚先輩を連れてきた訳じゃないのに。

「やめろって華代!

手塚部長、これは俺が勝手に華代を学校まで送ってるだけなんですよ!

自転車で爆走すれば朝練には間に合いますし…!」

華代は唇を噛み、油断すれば泣いてしまいそうだ。
あたしは手塚先輩の横顔を見た。

「事情は分かった。

今後、遅刻するようなら事前に連絡しろ。」

華代の背中を撫でていた桃先輩は目を見開き、思わず手を止めた。
手塚先輩の声は何時も通りに厳格さが窺えたけど、何処か優しかった。

「華代さんを送ってあげるといい。」

華代の次は桃先輩が泣いてしまいそうになった。
勿論、嬉し泣きだ。
華代がもう一度頭を下げた。

「っ、ありがとうございます!」

「俺からもありがとうございます!」

桃城兄妹に頭を下げられ、手塚先輩は顔に出さなくても少しだけ困っている気がした。





page 1/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -