見つかった電話

手塚先輩が変人を撃退し、大石先輩と乾先輩に交際を知られてから1週間が経った。
変人は確かにクラスメイトだったけど、まるで別人のように変わった。
まずは髪型が変わった。
あの翌日、頭を野球部員のように丸刈りにして登校してきたのを見て怯んでしまった。
奴のクラスでの立ち位置はというと、明るいムードメーカーのようだ。
あたしとは席も遠いし、今後も話す事なんてないと思っていたのに。

放課後。
人が疎らになってきた教室で、今日も三つ編みの桜乃ちゃんが声をかけてきた。

「愛ちゃん、部活行こう!」

『うん!』

あの後、桜乃ちゃんにはすぐに謝った。
更には変人と待ち合わせなんてしていなかった事と、告白された事まで喋った。
普通に告白されただけだと説明し、手塚先輩の事にも一切触れなかった。

―――もう隠すのはよそう。

手塚先輩にもそう説得され、交際を隠してはいない状態だ。
かといって、オープンにしている訳でもない。
クラスでは仲の良い桜乃ちゃんにも、あの手塚先輩と付き合っているんだと言い出せなかった。
大石先輩と乾先輩も口が軽くないようで、手塚先輩との交際は噂になっていない。
テニスバッグを肩に掛けた時、目の前に奴が現れた。

『!』

「不二。」

桜乃ちゃんがあたしの隣で硬直した。
あたしは手塚先輩並みの無表情をした。
目線だけで威圧感を出すと、奴は狼狽えた。

「その、こないだはごめん。」

『うん。』

「反省してる。」

『うん。』

「でもあれは嘘じゃないから。」

『うん。』

「聞いてんのか?」

あたしはわざとらしくテニスバッグを肩に掛け直した。
すると、奴はさらっと尋ねた。

「あの人と付き合ってんの?」

『……だったら何。』

「ふーん、お似合いじゃん。」

あたしは一瞬ぽかんとすると、テニスバッグをずり落としそうになった。
桜乃ちゃんがあたしを見て目を瞬かせた。

『この変人。』

「うるせーよ、じゃあな!」

あたしが苛立つのを他所に、奴は走りさった。
何なんだ、奴は。
すると、桜乃ちゃんが控えめに尋ねてきた。

「愛ちゃん、彼氏がいたの…?」

『えっと、実はそうなの。』

女子テニス部の部室へ向かいながら、二人でひそひそと話した。
越前君に片想いする桜乃ちゃんにはリア充な話がし辛い。

「いいなぁ、どんな人?」

『信じないかもしれないけど…。』

女子テニスコートの脇まで来た処で、桜乃ちゃんに小声で言った。

『実は…手塚先輩と付き合ってるの。』

「ほ、ほんとに?!」

『ほんとに。』

桜乃ちゃんの声は意外と大きかった。
既にコート内で部活の準備をする1年生に注目され、恥ずかしくなった。

『隠してる訳じゃないんだけどね…。

でも学校で友達に話すのは初めて。』

「あの手塚先輩が……。」

手塚先輩という単語だけを超小声で言った桜乃ちゃんは、男子テニス部のコートに視線を送った。
まだ手塚先輩はいないようだし、越前君もいない。

『誰にも話さないでね。』

「勿論だよ!」

隠していない筈なのに、まるで隠しているようだった。
やっぱり手塚先輩に申し訳ないという気持ちが残っているからだ。





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