静かな怒り

僕は確かに愛に対して過保護だと思う。
愛が酷い告白をされたと聞いたら、異常に腹が立った。
手塚に愛との交際を隠さないように頼もう。
もしかすると、既に隠さない方向で決意しているかもしれない。
愛とリビングで話し終わると、部屋に戻ってスマートフォンを手に取った。
連絡先から手塚の文字を見つけると、通話ボタンをタップした。
手塚が呼び出しに応じたのは意外と早かった。

《もしもし。》

「やあ、手塚。

夜遅くに悪いね。」

《構わないが、如何かしたのか?》

手塚が話を急かしているように感じた。
愛の事で話があるんだと察したのかもしれない。

「愛から変人とやらの話を聞いたよ。」

《…そうか。

愛は如何している?》

すっかり呼び捨てにも慣れたようだ。
微笑ましく思う。

「さっき話した時はスマホとにらめっこしていたよ。

君に連絡するかどうか迷っていたみたいだね。」

《……。》

手塚は何か考えているのか、何も答えなかった。
僕はクスッと笑った。

《大石と乾に話したのは聞いたのか?》

「え?」

大石と乾?
如何してこの二人が話に出てくるんだろう。

《愛から聞いていないのか。》

「如何いう事だい?」

手塚はどのように説明するかを考えているのか、口を閉ざした。
僕が手塚の言葉を待っていると、手塚が落ち着いた声で言った。

《愛と二人で話しているところを大石と乾に見られた。》

「付き合っているのを気付かれたのかい?」

《そういう事になる。

大石と乾に愛を紹介した。》

大石と乾に紹介されている愛を想像してみる。
申し訳なさそうに手塚の隣に立っている様子しか浮かばなかった。

「愛は躊躇っただろうね。」

《…そうだな、俺が無理に紹介したようなものだ。》

「手塚も強気だね。

今後も公にするつもりなのかい?」

《もう愛をあのような目に遭わせる訳にはいかないからな。》

やっぱり既に決意していた。
手塚は感情を表に出さない。
だからこそ、愛も手塚から好意を持たれていると気付かなかった。
それでも、手塚と話していると分かる。
手塚は愛が本当に大切なんだ。

「君だから言うよ。

愛を頼んだよ。」

《ああ。》

手塚の返事に力強さを感じた。
愛は繊細で抱え込み易い。
手塚のように大人びた人が傍にいてくれると、兄の僕も安心する。
愛と何を話している時に大石と乾に見られたのか、それは聞かないでおいてあげよう。



2016.12.4




page 1/1

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -