これが交際2日目-2

お風呂をお姉ちゃんにバトンタッチした後、部屋に戻って3DSをオンにした。
結局は集中出来なくて、途中でやめてしまった。
何となしに口寂しくなり、リビングまで冷蔵庫を開けに行った。
牛乳瓶を一本取り、紙の蓋を引き抜いた。
ダイニングテーブルに牛乳瓶を置くと、ポケットからスマホを取り出した。
辛かったら連絡するようにと手塚先輩から言われたけど、辛くなくても連絡していいだろうか。
満タンの牛乳瓶と鳴らないスマホを並べ、じーっとにらめっこする。

「何かあったのかい?」

『わ…?!』

椅子から落ちそうになった。
お兄ちゃんが何時の間にかすぐ背後に立っていて、あたしは顔が青くなった。

『気配を消して後ろに立たないでよ…!』

「愛が気付かなかっただけだよ。」

お兄ちゃんは微笑みながら隣に座った。
頬杖をつくと、青くなるあたしにもう一度尋ねた。

「何か、あった?」

お兄ちゃんはにこにこと微笑んでいる。
まさか大石先輩か乾先輩からあたしたちの事を聞いてしまったんだろうか。

『逆に聞くけど、如何して何かあったと思うの?』

「変だからさ。」

確かに変だと思う。
お風呂でぶつぶつ言ったり、スマホとにらめっこしたり。
これは初めての彼氏が出来た女の子の初々しい言動として解釈してもいいと思う。

『過保護なんだから。』

「可愛い妹の事だからね。」

『面白がってるだけでしょ。』

「そんな事ないよ。」

お兄ちゃんはあたしの頭に手を置いた。
心配してくれているのが伝わると、口が自然と話し始めた。

『クラスメイトに告白されて、手塚先輩に助けられた。』

「告白を助けられた?」

『うん。』

待ち合わせをしていないのにしているかのように振る舞われ、狂気も感じさせるような告白をされた。
手塚先輩に助けられるまでの経緯を一通り説明すると、お兄ちゃんの表情が険しくなった。

『手塚先輩がいなかったら、殴ってたと思う。』

「殴っても良かったんじゃないかな。」

お兄ちゃんが言うと本気に聞こえる。

「腕は?」

『平気。』

パジャマの右腕の袖を肩近くまで捲ってみせた。
全く痛みはないし、テニスにも問題ない。
お兄ちゃんは険しい表情のまま、普段よりも低い声色で言った。

「僕はもっと明るい話題を聞くつもりだったんだけど…そんな事があったんだね。」

『お、お兄ちゃん。

あたしは平気だから。』

「愛がモテるのは分かっていたから、近々誰かから告白されるんじゃないかと思っていたんだ。」

モテるのが分かっていた?
近々告白されると思っていた?
あたしの頭の中にクエスチョンマークが大量生産された。

「だから手塚は付き合っている事を隠さなくなると思ったんだ。

彼氏が手塚なら、男は愛に寄ってこないだろうしね。」

『う、うん?』

自分の兄が予言者だとは知らなかった、なんて考えてみる。

「酷い目に遭ったね。」

『心配し過ぎだって。

あたしは平気なのに。』

「心配するのは当然だよ。

帰ってからちゃんと手塚先輩に連絡したかい?」

『…まだ。』

「してあげなよ。」

『うん。』

お兄ちゃんは立ち上がると、もう一度頭を撫でてくれた。
過保護で予言者なお兄ちゃんだけど、あたしはお兄ちゃんの妹で良かったと思う。
大石先輩と乾先輩に交際を知られた事は、完全に話し忘れていた。



2016.12.4




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