これが交際2日目

あたしはお風呂のお湯に浸かりながら、ぼんやりとしていた。
頭に乗るタオルがずれ落ちそうになるけど、面倒臭くて気にしない。

―――辛くなったら、何時でも連絡しろ。

家まで送ってくれた手塚先輩はそう言ってくれた。
交際2日目、あんな変人に小汚いちょっかいを出されてしまった。
それなのに、あたしは意外と落ち込んでいない。
手塚先輩もあたしの精神面を凄く心配してくれているけど、手塚先輩がいるから大丈夫だと思える。
これくらいへっちゃらだ。

『でも、先輩たちに見られちゃったな…。』

乾先輩は狼狽える大石先輩の制止を振り切り、あたしたちを観察してデータを取っていた。
恥ずかしい以外の何物でもない。
あの時の事を思い出してみる――


「驚いたな、手塚に彼女がいたなんて。

しかも不二の妹さんじゃないか。」

大石先輩はそう言いながら、あたしたちの邪魔をした事を申し訳なさそうにしていた。
その隣には未だにペンを走らせる乾先輩がいる。
あたしは恥ずかしくて、手塚先輩の後ろにずっと隠れっぱなしだった。
何とかしてこの場を凌がなければ。
顔を見せないまま、ボソボソと言った。

『い…いえ、あたしはお兄ちゃんの妹じゃありません。』

「えっ、本当に?

不二愛さんだよね?

それに今お兄ちゃんって…。」

「大石、乾。

何時から見ていた?」

手塚先輩の核心に迫る一言で、あたしの肩がビクッと跳ねた。
手塚先輩の制服を無意識にぎゅっと握る。

「ああ、えっと……手塚が急に走り出した後、如何したのかと思って後を追ったんだ。

そしたら君たちが…そのー、何と言うか、寄り添っていて…。

で、でも手塚の背中でよく見えなかったなぁー!」

手塚先輩の質問に正直に答える大石先輩は、男子テニス部の副部長。
お兄ちゃん曰く、とても優しくて良い人だ。
乾先輩は四角眼鏡をギラギラさせながらペンを走らせ続けている。
手塚先輩は溜息を吐くと、はっきりと言った。

「愛。」

『へ…?!』

呼び捨て?!
手塚先輩を見上げると、困ったような瞳が見つめ返してきた。

「大石は信頼出来る。

それに乾には何時か気付かれる。

もう隠さなくてもいいだろう。」

『でも…。』

「安心しろ、俺がいる。」

大石先輩と乾先輩の視線が痛い中、手塚先輩はあたしの背中を優しく押した。
そして、二人の先輩の前に出し、あたしの肩に片手を置いた。

「俺が交際している不二愛だ。

二人共、宜しく頼む。」

まさか改めて紹介されるとは思わなかった。
宜しく頼まれてしまい、二人の先輩に頭を下げた。

『不二周助の妹、愛です。

宜しくお願いします。』

大石先輩は慌てて我に返り、乾先輩も落としそうだったノートとペンを持ち直した。

「俺は大石秀一郎だ。

宜しく、愛さん。」

「乾貞治だ、宜しく。」


――と、いった経緯だ。
あの後、大石先輩と乾先輩とは帰り道で別れ、手塚先輩に家まで送って貰った。
如何して手塚先輩はあたしを紹介したんだろう。
秘密にする筈だったのに、広まってしまうだろうか。
あの変人クラスメイトの事も気になる。

『これが付き合って2日目…。』

手塚先輩から遠くに座ったり、吃りまくったり。
今までずっとぎこちなかったあたしが、あの場で手塚先輩にキスを強請ってしまった。
手塚先輩も応えようとしてくれた。

『あたしの癖に生意気…!』

湯船をぺしぺしと叩き、あの瞬間を思い出して幸せを噛み締める。
すると、風呂場のドア越しに声が聞こえた。

「ちょっと愛!」

『わっ、お姉ちゃん?!』

「さっきから何言ってるの?

やけに長風呂だけど逆上せてない?」

『ごめん、もう出るから!』

お風呂待ちのお姉ちゃんに申し訳ないくらいの長風呂をしていた。
湯船にタオルが落っこちている事なんて、全く気付かなかった。




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