自称キューピッドの予言

手塚先輩と一緒に帰宅した後、あたしは晩ごはんとお風呂を済ませた。
お風呂上がりのドライヤーを終え、お兄ちゃんと一緒にお姉ちゃん特製のラズベリーパイを頬張っている。
これは裕太お兄ちゃんも好きな一品。

「愛、何だか嬉しそうだね。」

前に座っていたお兄ちゃんが言った。
あたしは思わず手を止め、上機嫌に微笑んだ。

『そ、そうかな?』

―――俺はお前が好きだ。

手塚先輩の言葉が何時までも思い出される。
如何しても頬の緩みが止まらない。
何とか誤魔化そうと、フォークを置いてからコップに入った麦茶を飲んだ。

「おめでとう。」

『?』

「手塚と付き合うんだよね?」

『げほっ…!』

むせた。
最もからかってきそうな人物に、最も早く気付かれてしまった。
お兄ちゃんはマイペースに微笑んでいる。

『なななに言ってるの?』

「やっぱりそうなんだね。

顔に書いてあるよ。」

確かに、嬉しさが顔に出てしまっていたのは不覚だった。
手塚先輩のよく言う油断をしていたんだ。
でも、付き合い始めた事まで見抜かれるとは思わなかった。

「手塚が愛の事を意識していたのは、随分と前から気付いていたよ。」

『嘘でしょ?!』

「キューピッドは僕だからね。」

『はい?』

キューピッド……?
天使の羽が生えたお兄ちゃんが手塚先輩にハートの矢を射るのを想像してしまった。

『如何いう意味?』

「真相は手塚本人から聞きなよ。」

『何よそれ…。』

あたしはラズベリーパイを再び頬張ると、むすっとしながら言った。

『付き合ってる事、隠しておこうと思ってたのに…。』

「如何して隠すんだい?」

あの手塚先輩があたしなんかと付き合っている噂が立つなんて、申し訳なさ過ぎる。
手塚先輩にしたのと同じように、お兄ちゃんにも説明した。

『だって…。』

「あの硬派な手塚が恋愛にうつつを抜かしているって周りから思われそう?」

『そう。』

テニスに生徒会、そして恋愛。
手塚先輩なら上手く両立出来るかもしれないけど、あたしは周りの目が心配なんだ。

「僕は口が軽いつもりはないし、愛と手塚が付き合うのは嬉しいよ。」

『え?』

「気付いていないかもしれないけど、二人は凄くお似合いだよ。

テニスが強い者同士だし、美男美女だしね。

愛はもっと自分に自信を持った方がいいと思う。」

そんな風に思っていてくれたんだ。
お兄ちゃんに気付かれてしまった失態も吹っ飛び、あたしは感謝を口にした。

『ありがとう、お兄ちゃん。』

お兄ちゃんは微笑んでくれた。

「でも隠すのは無理だと思うよ。」

『如何して?』

お兄ちゃんじゃあるまいし、あたしがにやにやしていたって、手塚先輩と付き合い始めたからだと気付く人なんていない。
手塚先輩だって何処から何処見ても恋愛しているような人には見えない。

「如何して無理なのか、すぐに分かるんじゃないかな。」

『?』

あたしが首を傾げていると、お兄ちゃんが空になったお皿を持って立ち上がった。

「後で手塚に連絡してあげなよ。」

『うん。』

あたしも立ちあがると、お兄ちゃんのお皿を預かり、自分のお皿と一緒に洗ってあげた。
後で手塚先輩に連絡しよう。
お兄ちゃんにバレてしまった…と。



2016.11.26




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