君の違和感

不二に試合を申し込んだあの日から5日が経過した。
不二は2日もすればオーストラリアへと旅立ち、U-15の国別対抗戦のアジア予選に参加する。
大会の期間は未定だが、勝ち残れば1週間以上は学校を不在にするだろう。
1週間分の生徒会の仕事を終わらせるべく、不二は仕事に熱心だ。
しかし、不二はあの日から変わった。

『皆さん、お疲れ様です。』

「愛ちゃーん、お疲れー。」

「あっ、愛ちゃん!

テニスの練習は大丈夫?!」

不二が放課後の生徒会室に入ると、その場にいた3年生5人が挨拶をした。
不二はやはり俺の席から最も遠い席にテニスバッグを置いた。
それを見ると、寂しさを感じた。
今や不二は俺の左肘の負傷を知る数少ない人間の一人であり、俺が直々に試合を申し込んだ人間だ。
俺にとって比較的に仲の良い女性の筈だ。
しかし、不二はああやって俺から遠くに座る。

『手塚先輩、お疲れ様です。』

「ああ、ご苦労。」

不二は笑顔で俺の元へ来ると、書類を受け取りにきた。
俺は不二に目的の物を手渡した。

「頼んだぞ。」

『確かに受け取りました。』

不二は何事もなかったかのように踵を返し、席に着いた。
無垢な笑顔だが、非常に違和感を覚える。
今まで以上に拒絶されている気がする。
不二は席に着くと、生徒会の中で最も綺麗な字をすらすらと書いていく。
テニスの練習で疲れているにも関わらず、生徒会で書記の仕事もこなす。
不二が努力家なのは見ているだけでも充分に分かる。
テニスにおけるあの強さも、努力の賜物なのだろう。
しかし、あの華奢な身体を酷使し過ぎていないか心配になってしまう。

「図書室で参考書を探してくる。」

俺がそう言って立ち上がると、同学年のメンバーが生返事をした。
もっとしっかりして欲しいものだ。
教室を出る直前に不二の様子を一瞥した。
集中して書類と向き合い、ペンを動かしていた。
何事にも懸命に取り組む姿勢が、俺の目を惹き付ける。
静かにドアを閉め、図書室へ向かった。

図書室の行き帰りの廊下でも、不二の事が頭を巡った。
自分は如何してしまったというのだろうか。
時間があれば不二の事を考えている。
嫌われているかもしれないという苦しさが原因だろうか。

生徒会室へ戻ると、中にいたのは不二だけだった。
しかもテーブルに突っ伏している。
俺は自分のテーブルに借りてきた本を置き、不二に近寄った。

『…すー…。』

予想通り、不二は眠っていた。
腕に顔を埋めている為、寝顔は見えない。
このような場所で眠ってしまう程、疲労しているのだろう。
俺は制服のブレザーを脱ぎ、不二の肩に掛けた。
もうすぐオーストラリアへ発つというのに、風邪を引いたら大変だ。
不意に、触れたいという衝動が湧いた。
無意識に手を伸ばしたが、慌てて引っ込めた。
俺はこのような衝動に駆られるような人間だっただろうか。
不二と出逢ってから、俺は変わり始めている。



2016.11.15




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