戦闘開始

まさか昨日の今日で再会するとは思っていなかった。
何時逢えるのかと待ち望んでいた筈だった。
飛行船から青い瞳で三人の団員を冷たく見下げている銀髪の優男は、間違いなくバショウだ。
だが小夜が知っているあのバショウではなかった。
今のバショウは研究所で慣れ親しんだ白衣の姿ではない。
R≠フ文字が刺繍されている服を身に纏っており、その華奢な体型がよく表れていた。
タッチパネル式の電子タブレットを片手に持ち、馴れた手つきで操作している。

『バショ…もご!』

身体が無意識にバショウの元へ駆け出そうとした小夜だが、スイクンにワンピースの裾を咥えられ、更にイーブイには顔にしがみ付かれた。
勿論、イーブイは爪を立てていない。
前進出来ず、声も途切れてしまった小夜は勢い余って後ろに転倒した。
だがしゃがんでいるスイクンの手の上に転倒した為、痛みはなかった。
イーブイは小夜の顔にしがみ付いたまま小声で言った。

“今行けば私たちが隠れている事がばれてしまう!

スイクンの事はロケット団に知られない方がいい。

此処は早く退散した方がいいよ!”

『もごご…!』

声にならない声を出しながら小夜は頷いた。
イーブイはやっと顔から退いた。

『ご、ごめん思わず…。』

バショウの顔を見ると脚が勝手に動いてしまった。
これでバショウがロケット団の一員である事が明確になった。
先程にもバショウは団員によって隊長と呼ばれていた為、ロケット団の中でも身分が上である事が窺える。
小夜は激しく動揺していた。

“あの男と何か関係があるの?”

イーブイがそう小夜に尋ねる。

『あの人は、えっと……。』

小夜は口籠ると、俯いて黙ってしまった。
スイクンは射抜くような瞳で小夜をじっと見つめており、イーブイは不安そうに首を傾げた。
一方、バショウはタブレットを使用し、ハッチが開いた荷室の操作を開始した。
荷室の鉄製の床が外側に向かってスライドし、積まれていたものが姿を現した。

『あれは…!』

顔を上げた小夜は驚愕した。
荷室の中から現れたのはポケモンの入っている檻だった。
大人一人分はある高さの檻の中には、二十匹程のイーブイが窮屈に詰められていた。
檻は勢い良く地表に落ち、砂埃が立ち込めた。

『何て粗野な扱い方を!』

小夜の傍にいたイーブイはそれを見て身体が硬直した。
檻の中のイーブイは全員が傷だらけで、動く事も声を出す事も出来ずにただ震えていた。
ロケット団員の三人はその檻に金具の付いた紐を掛けて引っ張り出した。
一方、バショウはタブレットの表示をレーダー探知機の画面へと変更した。
画面にはレーダー探知機の本体がある飛行船を中心に円が規則正しく表示され、その周りに小さな光の点が集中している。
ロケット団員三人とバショウもレーダーによって反応が確認されており、人間を示す赤色の点で画面に映し出されていた。
飛行船を囲っているポケモンたちも沢山の青い点で表示されていた。


―――ピーッ、ピーッ、ピーッ


タブレットが高い音を鳴らし、何か特殊な存在が付近にいると警告していた。
目を細めたバショウは画面を指でなぞって移動させ、何か不審な存在がないかを確認する。
するとレーダーの中心から離れた場所にも、三点の反応が寄り添い合って反応していた。

「これは…。」

内の一点は複数ある反応と同じで、普通のポケモンを示している。
もう一点は光が大きく、能力の高いポケモンを示しており、このポケモンも非常に興味深い。
だが更に問題なのはもう一点だった。
それは光の色が赤でも青でもなく、黄色く反応していた。
つまり人間でもポケモンでもないという事。

「……まさか。」

自分の目を疑ったバショウは、レーダーが示す方向へと視線を向けた。
まさか、其処にいるのだろうか。
もしそうだとすれば…。
暫し手を止めて考えた後、バショウはとあるボタンを迷わずタップした。




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