枯れた樹(2/4)



どうにかならないだろうかと考えていると複数の足音が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、男女二人と犬が一匹。

男性は長く艶やかな黒髪の青年で、女性は桜色の髪を肩で切り揃え上品な雰囲気を漂わせている少女だ。
少女と言ってもあたしより歳上に見える。
犬は青い毛並で左目に傷痕があり、煙管をくわえていた。


「ん?先客か」
「ですね。あの……ここで何をしているんです?」

少女の問いかけは自分に向けられたものだと理解すると、素直に答えた。

『あたしは旅して回ってるんだけど、折角ハルルまで来たのにちゃんと花咲いてるとこ見れないから残念がってたとこだよ』

「一人で旅か……?」

青年は驚きの表情をわずかに顔に浮かべた。
魔物や少なからずよからぬ輩もいる結界外を一人でうろつくのは誰だって信じられないだろう。無理もない。


『一応、それなりに腕はあるつもりだけど』

「でも世界を旅して回ってるなんて、すごいですね」

少女はキラキラと輝いて目であたしを見ている。
その視線がまぶしくて少々気まずく感じるが、気を持ち直し二人に質問を投げた。

『……で、お二人さんはどうしてここに?』

「えっと、……」
「ちょいと追ってるやつがいてな。そのついでだよ」

少女が返答に詰まったところを青年がすかさず助けを入れた。
多分、間違ってはいないだろう。

『追わないと逃げられちゃうんじゃないか?』
「大丈夫だって、樹見るぐらいなら平気だろ」

呑気だなあと思ったが、口には出さなかった。
青年は上を見上げて続けた。

「しっかし近くで見るとほんと、でっけ〜」
「もうすぐ花が咲く季節なんですよね」
「どうせなら、花が咲いてるところ見てみたかったな」
「満開の花が咲いて街を守ってるなんて素敵です」

少女がうっとりとした表情で樹を見つめながら言った。
しばしの間の後、少女は口を開いた。


「わたし、フレンが戻るまでケガ人の治療を続けます」

フレンというのが二人が追う人物だろうか。
大丈夫だと言ったのは戻ってくるからだったのかと一人納得した。

「なあ、どうせ治すんなら、結界の方にしないか?」

青年が少女に向かって言った。


「え?」


少女はきょとんとした顔をしている。
結界を治す、少しばかり興味が湧いた。


「魔物が来れば、またケガ人が出るんだ。今度はさっきのガキたちが大ケガするかもしれねえ」
「それはそうですけど、どうやって結界を?」
「こんなでかい樹だ。魔物に襲われた程度で枯れたりしないだろ」

青年は樹に歩み寄り、周囲を見渡す。

『何か他に理由がある、と』
「オレはそう思うけどな」

『……………』

あたしは自分の足元を見た。
土は禍々しい色に変色している。
これが原因なのではないかと踏んでいたが、確証はないので言わないことにした。

『なあ、結界治すの一緒にやっていいか?』

二人は一瞬ぽかんとしたが、すぐに笑顔を浮かべた。

「ほんとですか?是非、一緒やりましょう!」
「ま、人は多い方にこしたことはないしな。あんた、名前は?」

『アスカ、アスカ・シークランド』

「オレはユーリ・ローウェル、よろしくな。んでこっちがラピード」

ユーリが下に目を向けたので同じ方向を見た。
ラピードはワンと一吠えした。

「エステリーゼといいます。エステルって呼んでください」

エステルはあたしの手を両手で握り、千切れるんじゃないかと思うくらいぶんぶんと上下に振った。

「アスカが初めての同年代の友達なんです。仲良くしてください!」

『え……?あ、うんよろしく』


初めての同年代の友達に引っ掛かった。
彼女は一体どういう生活を送っていたのだろうか?








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