いざ執政官邸へ(2/5)



再び執政官邸へと訪れ、ひとまず物陰から様子を伺うことにした。

「何度見ても、おっきな屋敷だね。評議会のお役人てそんなに偉いの?」
「評議会は皇帝を政治面で補佐する機関であり、貴族の有力者により構成されている、です」
「言わば、皇帝の代理人ってわけね」
「へえ、そうなんだ」

「どうやって入るの?」
「裏口はどうです?」

「残念、外壁に囲まれてて、あそこを通らにゃ入れんのよね」

あれこれと話していたら、突然背後から声がぬっと割り入ってきた。
声の元へ視線を向ければ、髪を無造作に一つに束ね、紫の羽織を身にまとった中年の男が立っていた。その雰囲気は、一言でいえば"うさんくさい"。

「……っ!?」
「こんな所で叫んだら見つかっちゃうよ、お嬢さん」

男は静かに、と口元に手を当てエステルが声を上げるのを防いだ。

「えっと、失礼ですが、どちら様です?」
「な〜に、そっちのかっこいい兄ちゃんと」

男はユーリを見た後こちらに視線を移し話を続ける。

「このお嬢ちゃんとちょっとした仲なのよ。な?」


「いや、違うから、ほっとけ」
『ちょっとどころか微塵もないから』


求められた同意をあたしとユーリはばっさりと切り捨てた。

「おいおい、ひどいじゃないの。お城の牢屋で仲良くしたじゃない、ユーリ・ローウェル君よぉ」
「ん?名乗った覚えはねえぞ」

名を呼ばれたことでユーリはようやく男に視線を移した。男の手には例の手配書がありひらひらとさせていた。

「ユーリは有名人だからね。けど、アスカとはどういう関係なの?」

『ストーカー』
「違う違う!第一あれはじいさんから言われて……って誤解だから!冷たい目で見るのやめて!」

あたしの一言で慌てる男を皆は棘のある視線で見ていた。
ストーカーと言ったもののしつこく追いかけられた訳ではないが、まあいいか。

「うわ…とっとと縁切った方がいいわよ」
「騎士団に突き出してやってもいいが今はそんな暇ないんでな。で、おっさん名前は?」

「ん?そうだな……。とりあえずレイヴンで」
「とりあえずって……どんだけふざけたやつなのよ」
「んじゃ、ストーカーのレイヴンさん、達者で暮らせよ」

「つれないこと言わないの。ってかストーカじゃないってば!屋敷に入りたいんでしょ?ま、おっさんに任せときなって」

そう言って止める間もなく、レイヴンは門へと走って行った。嫌な予感がする。

「止めないとまずいんじゃない?」
「あんなんでも城抜け出す時は、本当に助けてくれたんだよな」
「そうだったんです?だったら、信用できるかも」
「だといいけどな」
『どうだかねぇ』

様子を伺えばレイヴンは門番と話している様子だったが、何故か門番はこちらに向かってきた。あのおっさん……。

「な、なんかこっちくるよ?」

レイヴンはこちらに向かってぐっと親指を立てて屋敷の中へと駆け足で入って行った。

「そ、そんなあ……」

「あいつ、バカにして!あたしは誰かに利用されるのが大っ嫌いなのよ!」

リタの怒号と魔術を喰らった門番は吹っ飛び倒れた。
結局、強行突破になるらしい。思わず大きなため息がこぼれた。

『最初からこうでよかったんじゃないの……』
「あ〜あ〜、やっちゃったよ。どうすんの?」
「どうするって、そりゃ、行くに決まってんだろ?見張りもいなくなったし」

ユーリが駆けだしたのを見て皆それについて行く。
リタが正面の入口から入ろうとするのを見て、ユーリはストップをかけた。

「ちょい、待った。正面は流石にやめとけ。裏に回って通用口でも探すぞ」
『中の状況もわからないし、それがいいだろうな』

屋敷の左から裏に向かおうとするとリフトが二台あり、その前にはレイヴンの姿があった。

「よう、また会ったね。無事でなによりだ、んじゃ」

レイヴンはそう吐き捨てると奥のリフトに乗り込んで上へと昇っていった。

「待て、こら!」

叫んだリタを先頭に手前のリフトに乗り込み起動させるとレイヴンが向かった方と真逆へ動き出した。まあ、リフトってそういうもんだよな……。

「あれ、下?」

カロルの戸惑いの声は届くはずもなくリフトは下へと動き続けるのだった。








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