いざ執政官邸へ(1/5)
「待って!せっかく、ケガを治してもらったのに!」
ノール港へと戻ればティグルを呼び止めるケラスの悲痛な声が聞こえてきた。
ティグルの手には剣が握られている。リブガロを倒しに行くつもりなのだろう。
「そんな物騒なもん持って、どこに行こうってんだ?」
「あなた方には関係ない。好奇心で首を突っ込まれても迷惑だ」
ユーリの問いにティグルは眉をしかめ冷たく返した。
それを見てユーリはリブガロのツノをティグルの足元に投げる。雑に扱うなよと小声でつっこんだ。
「こ、これは……っ!?」
ツノを見た途端、ティグルは驚愕の表情を見せその場に膝をついた。
「あんたの活躍の場奪って悪かったな。それは、お詫びだ」
「あ、ありがとうございます」
そういうとユーリはその場を離れ、夫婦は口をそろえ礼を言った。
みんなに目配せをし、ユーリの後を追った。
「ちょ、ちょっと!あげちゃってもいいの?」
ユーリに追いつくなりカロルが抗議の声を上げた。
「あれでガキが助かるなら安いもんだろ」
「最初からこうするつもりだったんですね」
「思いつき思いつき」
エステルの言葉にユーリは手をひらひらさせて軽く返した。背中を向けているので表情が伺えないが、図星かもしれない。
「その思いつきで、献上品がなくなっちゃたわよ。どうすんの」
『別の方法で乗り込むしかないな』
「なら、フレンがどうなったか確認に戻りませんか?」
「とっくにラゴウの屋敷に入って、解決してるかもしれないしね」
「だといいけど」
「宿を訪ねてみましょう」
宿屋でフレンたちの部屋を訪ねてみたら、フレン、ソディア、ウィチルの三人が渋い顔でいた。
「相変わらず辛気臭い顔してるな」
「色々考えることが多いんだ。君と違って」
「ふーん……」
「また無茶をして賞金額を上げて来たんじゃないだろうね」
フレンの言葉にユーリは目をそらして本題に移った。
「執政官とこに行かなかったのか」
「行った。魔導器研究所から調査執行所を取り寄せてね」
「それで中に入って調べたんだな」
ユーリの問いにフレンはさらに表情を歪め答えた。
「いや……執政官にはあっさり拒否された」
「なんで!?」
「魔導器が本当にあると思うなら正面から乗り込んでみたまえ、と安い挑発までくれましたよ」
「私たちにその権限がないから、馬鹿にしているんだ!」
ウィチル、ソディアの二人も苦々しい表情でカロルの疑問に答えた。
「でも、そりゃそいつの言う通りじゃねえの?」
「何だと!?」
ユーリに怒りを表し今にも飛びかかろうとするソディアをウィチルが諫める。
「ユーリ、どっちの味方なのさ」
「敵味方の問題じゃねえ。自信があんなら乗り込めよ」
「いや、これは罠だ」
フレンは首を振って、さらに言葉を続ける。
「ラゴウは騎士団の失態を演出して評議会の権力強化を狙っている。今、下手に踏み込んでも、証拠は隠蔽され、しらを切られるだろう」
「ラゴウ執政官も、評議会の人間なんです?」
「ええ」
「騎士団も評議会も帝国を支える重要な組織です。なのに、ラゴウはそれを忘れている」
権力を悪用する人間の汚さに、思わずため息が出る。
「とにかく、ただの執政官様ってわけじゃないってことか。で、次の手考えてあんのか?」
「…………」
策がないらしくフレンは返答に詰まった。
「なんだよ、打つ手なしか?」
「……中で騒ぎでも起これば、騎士団の有事特権が優先され、突入できるんですけどね」
「騎士団は有事に際してのみ、有事特権により、あらゆる状況への介入を許される、ですね」
これはまさか…と思ったところにユーリが追い打ちをかける。
「なるほど、屋敷に泥棒でも入って、ボヤ騒ぎでも起こればいいんだな」
「ユーリ、しつこいようだけど……」
「無茶するな、だろ?」
「市中の見回りに出る。手配書で見た窃盗犯が、執政官邸を狙うとの情報を得た」
ソディアとウィチルに指示を出すフレンを横目に、一向は部屋から出た。
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