暗然たる港町(2/5)



ユーリが向かって行った方へ行くと金属のぶつかり合う音が路地裏から聞こえてきた。
建物の陰から路地裏の様子を伺うと、ユーリと赤眼の集団が戦っていた。三対一では分が悪く、ユーリは苦戦していた。

『っ!ユーリ……』
「僕が行くから、君は待っているんだ」

剣に手を伸ばし助太刀しようとすると、何者かに肩を掴まれ阻まれた。
誰かとそちらに視線を移すと、それはハルルで出会った金髪碧眼の騎士だった。

『あ……』

話しかける暇もなく、騎士はユーリのもとへと駆けて行った。

ユーリが赤眼の一人と鍔迫り合いになっている隙に、残った二人がユーリに襲い掛かる。
騎士がユーリを突き飛ばし、その二人の攻撃を受け止めはじき返して箱の山に激突させた。
何事か、と顔を上げ立ち上がったユーリに騎士が声をかけた。

「大丈夫か、ユーリ?」
「フレン!おまっ……それオレのセリフだろ」
「まったく、探したぞ」
「それもオレのセリフだ」

そう言いながらユーリは残った一人に衝撃波を飛ばした。
やはり、ハルルで出会ったあの騎士がエステルが探していたフレンという人物だったらしい。

ユーリとフレンは体制を立て直した二人の攻撃をはじき、後ろから襲い掛かってきた一人の攻撃をかわすと同時に衝撃波を飛ばした。
赤眼の三人は箱の山に埋もれた。

「ふぅ……マジで焦ったぜ……」

「さて……」

剣を鞘に納め、気を抜いたユーリにフレンは剣を振りかざした。
ユーリはそれをとっさに鞘で受け止める。

「ちょ、おまえ、なにしやがる!」
「ユーリが結界の外へ旅立ってくれたことは嬉しく思っている」

ユーリは受けた剣をはじき返すが、なおもフレンの攻撃は止まずかわし続ける。
割って助けに行こうかと思ったが、フレンの勢いの凄さに負けて静観することにした。

ユーリを見捨てたという訳ではない、決して。

「なら、もっと喜べよ。剣なんか振り回さないで」
「これを見て、素直に喜ぶ気がうせた」

そう言ってフレンは攻撃の手を止めると剣で壁を指した。

「あ、10000ガルドに上がった。やり」

恐らくあの下手な似顔絵の手配書が貼ってあるのだろう。しかも懸賞金が倍になっているらしい。
喜ぶなよ、と内心突っ込みを入れると、ちょうどそこにエステルがやってきた。

「あ、アスカ。ユーリいましたか?」
『エステル。ああ、そこにいるよ』
「それはよかったです。ユーリ、さっきそこで何か事件があったようですけど……」

フレンもいると言う前にエステルは歩き出してしまった。そしてそのまま路地裏へ顔を出せば、ユーリと探していたフレンが。

「ちょうどいいとこに」

フレンに色々と言われていたであろうユーリが悪い笑みを浮かべている。

「……フレン!」
「え……」

フレンの姿を見るや否や、エステルはぱっと表情を明るくしフレンに抱き着いた。思わず心の声が漏れる。

『やるなあ……エステル』

「よかった、フレン。無事だったんですね?ケガとかしてませんか?」
「……してませんから、その、エステリーゼ様……」
「あ、ご、ごめんなさい。わたし、嬉しくて、つい……」

身体をぺたぺたと触られしどろもどろになりつつもエステルを窘めたフレンは、顎に手を添え一考した後有無を言わさずエステルを連れて行ってしまった。

「……こちらに」
「え?あ、ちょっと……フレン……お話しが……!?」

恐らく宿屋に向かったであろう二人が見えなくなるのを見届けて、ユーリに近づいた。

『振られたな、ユーリ』
「アスカお前……いたなら助けてくれよな」
『残念ながら、すごい剣幕で剣振り回してるとこに割り込む勇気はないんでね。どうする、あのふたりのとこ行く?』
「いや、先にカロルとリタを拾ってからだな」
『宿屋にいるはずだから戻ろう』

ユーリとともにカロルとリタ、そしてラピードの待つ宿屋へと足を進めた。




宿屋へ着くと、カロルとリタが入口の傍で雨宿りして待っていた。
こちらの姿を確認すると、カロルがおかえりと声をかけてくれたのでただいまと返した。

「なんかエステルが引きずられていったけど……」
「ふたりは宿屋の中か?」
「うん。さっきのがフレンなんだ」
「まあな」

そう言って宿屋の中に入ろうとしたユーリをリタが引き止めた。

「今、行っても色々立て込んでると思うわよ」
「長くなりそうだったし、先に街を見て回ったら?」
「……そうだなあ」

カロルの提案に街を見渡しながら少しの間考え込んだ後、じゃ行ってくるわと言ってユーリは街中を歩き始めた。
リタの隣に行って壁によりかかるとカロルが話しかけてきた。

「アスカは行かなくていいの?」
『前に来た事あるからな。……もっと活気のあるいい街だったけど、こんな風になったのはやっぱり執政官が変わったからか』
「あんた執政官が変わったってこと知ってたけど、どっから仕入れたのよその情報」
「確かに、誰から聞いたのさ」

リタが訝しげな目をして聞いてきて、信用ないな、と思いつつも正直に答える。

『旅してればそれなりに人脈もできるもんさ。とあるギルドの人から聞いたんだよ』
「え?どこのギルド?」
『どこでもいいでしょ。言っとくけど、怪しいとこじゃないからな』

どこと言われると言い辛いのだが、知られたら面倒ではある。
情報をくれた赤い髪の社長の顔を思い浮かべ、黒いギルドでないと念のため釘を刺しておく。

「ふーん、あんたはギルドに入らないの?」
『入ったら自由に行動できないだろうと思ってさ』
「色々なところに行けるけど、依頼が最優先だからね」
『そそ、やりたいことをやりたい時にしたいからな』




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路地裏であったことを話したり雑談している間にユーリが帰ってきた。

『おかえり、どうだった?……って何それ』

ユーリの手にはでかい風変わりな人形が握られていて、聞かずにはいられなかった。

「執政官様の屋敷の前でちょっとな。カロル、これ鞄にしまっておいてくれ」
「別にいいけど……何も問題起こしてないよね?」
「大丈夫だって。じゃ、中入るぞ」








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