旅の決断(2/5)



入り口の騎士にリタからもらった通行証見せてやればすんなり通してくれた。
現在はリタの小屋で各々自由に過ごしている。
あたしは床に座り込みリタがくれた本を読んでいた。
エステルは落ち着かない様子でその場をうろうろとしているが、それと対照的にユーリは寝転がっている。


「フレンが気になるなら黙って出て行くか?」
「あ、いえ、リタにもちゃんと挨拶しないと……」
「なら、落ち着けって」

それでもエステルは、そわそわした様子である。

「ユーリはこのあと、どうするの?」
「魔核ドロボウの黒幕のとこに行ってみっかな。デデッキってやつも同じとこ行ったみたいだし」
「だったら、ノール港まで一直線だね!」
「トリム港って言ってなかったか?」
「ユーリ、知らないんだ」

カロルはユーリを若干小馬鹿にしたような顔をした。

「知らないって何を?」

えへんと胸を張り説明しようとしたカロルに割り込んで代わりにあたしが説明した。

『ノールとトリムは二つの大陸にまたがった一つの街。このイリキア大陸にあるのが港の街カプワ・ノール。通称ノール港。
隣のトルビキア大陸には同じくカプワ・トリム。通称トリム港、と』

「もうアスカってば!ボクが言おうと思ってたのに!」
『ごめんごめん。さ、続きどーぞ』

あたしは再び本に目を通し始めた。
ごほんと咳払いしてから、カロルが話し始めた。

「だから、まずはノール港なの。途中、エフミドの丘があるけど、西に向かえばすぐだから」
「わたしはハルルに戻ります。フレンを追わないと」
「……じゃ、オレも一旦ハルルの街へ戻るかな」

自分はこの先どうするか、と考え始めた。
元々滞在する予定だったハルルに行って皆と別れるか、それとも-----


「え?なんで?そんな悠長なこと言ってたら、ドロボウが逃げちゃうよ!」
「慌てる必要ねえって。あの男の口ぶりからして、港は黒幕の拠点っぽいし。それに、西に行くならハルルは通り道だ」
「え〜、でもぉ……」
「急ぐ用事でもあんのか?好きな子が不治の病で、早く戻らないと危ないとか?」
「そんなはかない子ならどんなに……」

『はかない子……?』

カロルがボソッと言ったことについ反応してしまった。
するとカロルは面白いくらいに取り乱した。

「ななな、なんでもないよっ!そ、それよりアスカはどうするの?」
『あたしもハルルかな。元々、ハルルに何日か滞在するつもりだったし』
「結局みんな同じってことか」

丁度そこにリタが帰ってきて、寝転がっているユーリをじとりと一瞥した。

「待ってろとは言ったけど……どんだけくつろいでんのよ」
「あ、おかえりなさい。ドロボウの方はどうなりました?」
「さあ、今頃、牢屋の中でひ〜ひ〜泣いてんじゃない?」

腕を組んだリタの顔には、ざまあみろと書いてある気がした。
ユーリが立ち上がり、リタに謝った。

「疑って悪かった」
「軽い謝罪ね。ま、いいけどね、こっちも収穫あったから」

リタは部屋にあるチョークで書かれた術式と、エステルを交互に見つめた。
そんなリタを不思議に思ったエステルが声をかけた。

「リタ?」

「んじゃ、世話かけたな」
「なに?もう行くの?」
「長居してもなんだし急ぎの用もあるんだよ」
「リタ、会えてよかったです。急ぎますのでこれで失礼します。お礼はまた後日」

エステルはリタに頭を下げて、別れの言葉を述べた。

「……わかったわ」




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広場までついて来たリタにユーリが口を開いた。

「見送りならここでいいぜ」


「そうじゃないわ。あたしも一緒に行く」


一同に一瞬静寂が訪れる。

「え、な、なに言ってんの?」
『どういう風の吹き回しだ?』
「まさか、勝手に帰るなってこういうことか?」
「うん」

リタは短く返事をした。

「うんって、そんな簡単に!」
「いいのかよ?おまえ、ここの魔導士なんだろ?」

「……んんー……」

リタは考え込んでから、何か思いついた顔をした。
どうやら同行するための口実を思いついたらしい。

「ハルルの結界魔導器を見ておきたいのよ。壊れたままじゃまずいでしょ」
「それならボクたちで直したよ」

リタの言い分をカロルがあっさり一蹴した。
リタはそれにわけがわからないといった表情をした。

「はぁ?直したってあんたらが?素人がどうやって?」
「よみがえらせたんだよ。バ〜ンっと、エステ……」
「素人も侮れないもんだぜ」

カロルの言葉にユーリが被せて言った。
ナイスフォロー、と思いつつユーリに同調した。

『そういうことだから、心配はいらないってこと』
「ふ〜ん、ますます心配。本当に直ってるか、確かめにいかないと」
「じゃ、勝手にしてくれ」

どうやら諦めがついたらしい。
ユーリはやれやれと小言を言った。

エステルがリタの前に立ち、リタは突然のことに戸惑った。

「な、なに!?」
「わたし、同年代の友達、これで二人目なんです!」
「あ、あんた、友達って……てか二人目?」

友達、という単語に反応してリタは頬を赤くした。

『悪いね、一人目はあたしだ』


「よろしくお願いします」
「え、ええ……」

エステルのキラキラした目にリタはたじたじだった。








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