天才魔導士(2/5)
「ここがアスピオみたいですね……」
朝食を済ませた後、一行は足を進めアスピオへとたどりついた。
洞窟の中は全く陽が射しておらず、魔導器の光だけが辺りを照らしていた。
「薄暗くてジメジメして……。おまけに肌寒いところだね」
「街が洞窟の中にあるせいですね」
エステルは興味深そうに、辺りを見回している。
「太陽見れねぇと心までねじくれんのかね、魔核盗むとか」
『陰気なとこいるから陰気な思考持つようになるんじゃないか?』
「言えてるな」
大きな門のようなところに、騎士が二人いた。
エステルが進んでいくと、それは遮られた。
「通行許可証の提示を願います」
「許可証……ですか……?」
向かって右側にいた騎士が近づいてきた。
「ここは帝国直属の施設だ。一般人を簡単に入れるわけにはいかない」
「そんなの持ってるの?」
カロルの問に、ユーリは身振りで答えた。
持ってない、と。
ユーリがこちらを見てきたが、首を横に振って否定の意を示した。
生憎アスピオには知り合いもいないし、来たのも今回が初めてだ。
「中に知り合いがいんだけど、通してもらえない?」
「正規の訪問手続きをしたなら、許可証が渡っているはずだ。その知り合いとやらからな」
「いや、何も聞いてないんだけど。入れないってんなら、呼んできてくんないかな」
「その知り合いの名は?」
「モルディオ」
ユーリが名を口にした途端、騎士は驚愕した。
「モ、モルディオだと!?」
なぜ態度が急変したのか、さっぱりわからない。
モルディオという人物は相当有名らしい。
「や、やはり駄目だ。書簡にてやり取りをし、正式に許可証を交付してもらえ」
「ちぇ、融通きかないんだから」
『態度だけじゃなく、頭も固いんだな騎士様は』
カロルと小言を言うと、騎士は敵意を向けてきた。
慌ててカロルはユーリの後ろに隠れるが、わたしは平静を保っていた。
「あの、フレンという騎士が訪ねて来ませんでしたか?」
「施設に関する一切は機密事項です。些細なことでも教えられません」
早く帰れ、とでも言っているかのように騎士は早口で言った。
「フレンが来た目的も?」
「もちろんです」
「……ということは、フレンはここに来たんですね!」
「し、知らん!フレンなんて騎士は……」
エステルの誘導尋問に引っかかり騎士は慌てている。
それがおかしくて思わず笑いが漏れてしまった。
『……ふ』
「何がおかしい!」
『いや、別に』
顔を逸らし、気持ちを落ち着かせた。
「じゃあせめて伝言だけでもお願いできませんか?」
「やめとけ、こいつらに何言っても時間の無駄だって」
その場から離れたユーリに続いた。
「冷静にいこうぜ」
「でも、中にはフレンが……」
エステルは入り口の方を見つめながら言った。
「諦めちゃっていいの?」
「絶対に諦めません!今度こそフレンに会うんです」
「オレはモルディオのやつから魔導器取り返して、ついでにぶん殴ってやる」
『おーおー、燃えてるね』
二人共手を握りしめ、やる気満々といった感じである。
「だったら、他の出入り口でも探さない?」
「それ、採用。ぐるっと回ってみようぜ。いざとなれば、壁を越えてやりゃあいい」
『それが一番手っ取り早いよな』
先程の場所から左に回りこむと、扉を見つけた。
途中、変なオブジェに変装していたワンダーシェフという人物からハンバーグのレシピを教わった。
ユーリがドアノブを捻るがガチャガチャと音をたてるだけで、諦めたのかこちらへ戻ってきた。
「都合よく開いちゃいないか」
「壁を越えて、中から開けるしかなさそうですね」
「早くも最終手段かよ……」
『しゃーないよ。開いてないんだからさ』
三人が話す後ろでカロルがごそごそと動いている。
「フレンが出てくるのを待ちましょう」
「フレンは出てきたとしても、モルディオは出てこないだろ」
「出てきたフレンにお願いして中に入れてもらうのはどうです?」
「あいつ、この手の規則にはとことんうるさいからな。頼んでも無駄だって」
『エステルの頼みなら聞いてくれるんじゃない?』
ガチャ、と何かが開くような音がした。
それはカロルがいた方から聞こえた。
「カロル、何をしてるんです?」
「よし、開いたよ」
「え?だ、だめです!そんな泥棒みたいなこと!」
「……おまえのいるギルドって、魔物狩るのが仕事だよな?盗賊ギルドも兼ねてんのかよ」
「え、あ、うん……。まあ、ボクぐらいだよ。こんなことまでやれるのは」
カロルは言葉を濁しそう言った。
『カロル、そんな年でこんなことできるなんて将来が心配だ……』
「ご苦労さん、んじゃ行くか」
ユーリは扉に近づいた。
「ほんとに、だめですって!フレンを待ちましょう」
「フレンが出てくる偶然に期待できるほどオレ、ガマン強くないんだよ。だいたい、こういうときに法とか規則に縛られるのが嫌でオレ、騎士団辞めたんだし」
「え、でも……」
「んじゃ、エステルはここで見張りよろしくな」
「え、えっと、でも、あの…………っ!!わ、わたしも行きますっ」
エステルは悩み抜いた挙げ句、同行することにしたようだ。
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