★君色の光 | ナノ 「校則違反だ」
「……ええ?」


放送での呼び出しは方々に気を遣うからやめてくれ、と懇願され、仕方なく携帯で呼び出した千紘が現れると同時にトンファーを投げ付ける。
顔のすぐ横の壁にめり込んだそれにびく、と大きく身体を震わせた彼は驚いた表情でこちらを見る。
そんな彼に校則違反だと告げると、思い当たる節がないのかことりと首を傾げてからネクタイやシャツの点検を始めた。
その間にゆっくりと彼に近づいて壁のトンファーを引き抜く。


「……出会い頭に武器投げ付けられるくらい違反してた? 俺」
「そうだね。引きちぎるよ」
「ヒッ…! ま、まって!そんな違反してる? ちゃんとしてない?」
「覚悟はいいかい。猶予はあげたよ」
「いや、いきなりにも程があるくらいいきなりなんですけど…、っぅぐ!」


引きちぎるという言葉に青褪めた彼は距離を取ろうと後ずさるが、その右腕を捕まえて壁に押し付ける。
咄嗟に左手をついて衝撃を逃がしたようだが殺し切れず、千紘は壁に胸を打ち付けて苦しげに呻く。
その間に捕えたままの右腕を背中側で捻り上げればもう逃げられない。
壁に向き合う形で押さえつけられている千紘は右肩越しにこちらを振り返る。その表情から彼が困惑しているのがよくわかる。
それには応えずに晒された彼の右耳にあるものに触れる。いつも右側の髪を留めているため遮るものはない。
すると彼は淡い色の瞳を大きく見開いて、薄い肩を強張らせた。


「……っ、!」
「これ。ずっとつけてるけど、もちろん違反だってわかってるよね」
「ピアス、のこと?」
「そう」
「……違反なの? 獄寺も結構じゃらじゃらしてるのに」
「彼も違反だ。でもピアスは君だけ」
「でも……、」
「……もういいね? 引きちぎらせてもらうよ」
「ぅ、あ、まって! じ、自分で…っ、んっ、」
「………………」
「………………」


ここ数日仕事をさせるようになって分かったが、千紘の頭は悪くない。勉強ができるかできないかという意味だけではなく、人間的に馬鹿ではない。
全ての動作がのんびりしているためそれほど期待はしていなかったが、いざやらせてみれば覚えも良く、処理も正確だった。
説明していないことでも判断できるところはするし、こちらの確認が必要なことは自己判断せずにきちんと声を掛けてくる。非常に優秀だ。
当初こそ並盛の風紀を乱せばどうなるか理解していなかったとはいえ、基本的に無意味に逆らうことはない。下手に逆らうことで制裁を受けるということも今は理解している。
そんな彼がピアスを外すことを渋ったことに少し興味が湧いて、ピアスに込めていた力を緩めた。
その拍子に指先が耳に触れると、彼はぞわりと背筋を震わせて唇を噛んだ。予想外の反応にじっと彼を見つめれば、恥ずかしかったのか顔を真っ赤に暴れ出した。


「……は、離せ雲雀! こっち見んな!」
「…………君」
「う、うるさい! 何も言わずに手どけろ…!」
「……耳」
「うう、そうだよ! 耳触られんの苦手なんだよ……!!」
「ふうん」
「! や、やだってば…っ」


自棄になったように喚く千紘の耳を擽るように撫でてやると、びくびくと身体を震わせる。
指を動かす度に鳴き声を上げる彼は本当に仔猫のようだ。
しばらく耳を弄び彼の反応に満足して拘束を解けば、千紘はずるずると床に座り込んだ。腰が抜けたらしい。
そして拗ねたようにこちらを見上げてきた。上気したままの頬や濡れた目元が随分と艶やかだ。


「うう、この人でなしめ……」
「そんな弱点を晒け出してるほうが悪いだろ」
「好きで出してるんじゃない…右側だけ髪が跳ねるから仕方なく!」
「へえ」
「雲雀みたいなさらさらな奴にはわかんないだろうよ…」
「ところでピアスだけど」
「……わかったよ。外したらいいんだろ」
「外したくない理由でもあるのかい」
「…別に。ちょっと意地張ってみただけ」
「意地」
「そ。俺だって中学生のときは開けてなかったよ。高校入ってから」


意地だと答えた千紘は静かに目を伏せた。赤い頬に落ちた長い睫毛が一瞬だけふるりと震えてすぐに持ち上がる。
そういえば彼はここではない世界から来た際に身体が若返ったらしい。
誰も彼のことを知らないこの世界でそれを証明するのは彼自身の記憶と彼の財布に入っている高校の生徒手帳。それとこのピアスしかない。
中学生の身体にピアスが残っているということが千紘の中ではそれなりに重要なことらしい。少なくともこの自分に逆らうほどには。
諦めたようにピアスに手を伸ばした細い手首を掴んでやると、彼は驚いてこちらを見上げた。


「……雲雀?」
「重要なのはピアス?」
「いや、別にピアス自体はどうでもいいよ。福袋に入ってたやつだし」
「そう。今度僕が別のピアスを用意する。それなら校内でつけていても構わない」
「え。それはどういう」
「いいね」
「は、はい……?」


会話の内容を理解し損ねたのか、彼は不思議そうに首を傾げる。
別に彼の境遇に同情したわけではない。ただの首輪代わりだ。


back

2018.9.06 百
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -