★君色の光 | ナノ 「ど、どうしよう……!」
「やっぱり奴のところに乗り込みましょう十代目!」
「さすがに心配だよな〜」


青い顔の沢田に息巻く獄寺、そして困り顔で同調する山本。
話題に上がっているのは授業中に姿を消した転校生、咲山千紘のことだ。
昼食後の最初の授業中、突然スピーカーから雲雀の声が流れて教室、いや学校中が静まり返った。教師までもぴたりと教科書を読むのを止めた。
『咲山千紘、すぐに応接室』とだけ言って切れた放送にぽかんとスピーカーを見つめた千紘は、教師含むクラス中の視線を一斉に浴びてびくりと身体を竦ませた。
もう一度言うが授業中だ。ただでさえ静かな空間で目立ってしまい身を小さくするしかない。
とりあえずこの授業が終わったら文句を言いに行こうと心に決めて机を並んでいると、慌てた様子の沢田に声を掛けられる。


『あの、千紘…? 行かなくていいの…?』
『え? いや、授業中だし』
『ええ!? ヒバリさんの呼び出しだよ!?』
『い、いいから早く行きなさい咲山!』
『え、えええ……?』


雲雀に逆らえば制裁を食らうと頭に刻み込まれている沢田たちにとって、雲雀の呼び出しは最優先事項だ。もちろん教師も含めて。
千紘の中では当然授業を受けるほうが優先度が高かったのだが、教室の空気がそれを許してくれない。
授業なんてどうでもいいから行きなさい! と教師から必死の形相で迫られた千紘は困惑する。どうでもいいとかある?
とにかく余りに鬼気迫った雰囲気に完全に気圧された千紘は、押し出されるように教室から出て行った。
その小さな後ろ姿を見送ったのが最後、放課後の今になっても千紘が戻ってこない。
もしや行くのが遅れた所為で雲雀に制裁を受けてしまって動けなくなっているのだろうか、とおろおろと心配する沢田に獄寺と山本が声を掛けたのだ。


「ここで心配してても埒が開かねーし、ヒバリんとこ行こうぜ」
「山本……」
「ったく、アイツ十代目にご心配掛けやがって許さねぇ」
「べ、別にオレのことはいいよ! でも、とにかく千紘が心配だよ」


獄寺は千紘にそっけない態度を取ることが多いが、害のない千紘のことはそれなりに好意的に見ているようで、分かり辛いが気になってはいるようだ。
山本も千紘がのんびりした普通の少年であることを知っているし、身体も小さく運動も得意ではなさそうな千紘のことが心配なようだ。


「よ、よし!行こう…!」
「どこに?」
「どこってヒバリさんと千紘のとこに…って千紘!?」
「俺?」
「千紘、無事だったのな!」
「? うん?」
「チッ、紛らわしいことすんなよテメー!」
「……えーと、ツナたちがどうした…?」


ようやく雲雀のところへ向かう決心をした沢田にのんびりと声を掛けてきたのは渦中の千紘。
不思議そうにことりと首を傾げる千紘に目立った怪我は無さそうでほっと一息つく。
同様に安堵した様子の獄寺は怒り出し、対照的に山本は破顔する。三者三様な反応に千紘は戸惑ったように眉を下げた。かわいい。


「だって千紘、ヒバリさんに呼び出されたでしょ?」
「うん。でも別に何ともなかったよ」
「え!? あんな呼び出しされたのに!?」
「ああ、あれ、困るから緊急じゃないなら授業中はやめろって言っといたよ」
「ええええ!? ヒバリさんにー!??」
「すげーのな千紘。ヒバリに殴られなかったか?」
「ものすごい睨まれたけど殴られはしてないよ」
「えええー!??」
「……つーか、雲雀にびびりすぎじゃない…?この学校どうなってんの?」


千紘の言葉に沢田は再び顔を青くする。あの雲雀に歯向かうなんて。
この並盛という土地に置いては雲雀恭弥という存在には絶対に逆らってはいけないという暗黙のルールがある。
なんせ少しでも規律を乱せば容赦なく殴り掛かられるのだ。端から見れば滅茶苦茶だがそれが通る程に本人が強い。
しかし異世界から現れた千紘はそんな雲雀の実態を知る由も無い。
自然と震える身体で雲雀の恐ろしさを懸命に説明すると、千紘は得心がいったように頷いた。


「なるほど。美人で強いんだな」
「美人!? いまそんな話してたっけ!?」
「秩序ってそういうことか。凶暴だけどきっちりしてんだなぁ」
「う、うん……? とにかく、あんまり近付かないほうがいいよ」
「悪い人じゃないと思うけどなぁ。俺雲雀の手伝いすることになってんだよね」
「あぁ? どうことだ?」
「んー、いま俺一人暮らしでさ、生活費とかを雲雀が立て替えてくれてるっぽくて」
「一人暮らししてんの!? つーかなんでヒバリさんが!?」
「うーん……雲雀というか見ず知らずの赤ん坊らしいんだけど」
「あ、赤ん坊ってまさか……」


リボーンのことか。リボーンのことだよな?
群れを嫌う雲雀が千紘を呼び付けて制裁を加えていないことも、中学生で一人暮らしをしているらしい千紘も、突然出てきた赤ん坊についても気になる点がありすぎた。情報が多い。
ここ数日千紘と過ごしてみて、ボンゴレの関係者では無さそうだと沢田は感じていた。
のんびりしててずれているところもあるが、基本的に普通の男の子だ。無害な上に癒される。
そんな千紘をボンゴレ関連のことに巻き込みたくはない。マフィアなんていう非日常で危険な世界に関わらせるべきじゃないと思う。
というか自分も正直マフィアとは関わりたくない。
だか既にリボーンが接触しているところを見ると巻き込む気満々だろう。
顔色を悪くして黙り込んだ沢田に、再び心配そうに首を傾げる千紘。ああかわいい。
到底リボーンには敵わないが、万が一の際には千紘を守ろうと沢田は心に決めた。


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2018.08.12 百
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