★君色の光 | ナノ 「覚悟はいいかい、咲山千紘」
「え、ひば……いて」


昼休み前の授業中に取り締まりをしていると下足箱に人影を見つけた。
小柄な体格とゆったりした動きですぐに咲山千紘だと分かり、声を掛けると同時にトンファーで壁に押し付ける。
突然背後から身体を拘束された彼は驚いた表情でこちらを振り返る。
目が合うと眠たげな瞳を瞬かせてへらりと笑うと、おはよう雲雀、と呑気に挨拶をしてきた。
状況が分かっていないのか。
ぐっと腕の力を強めると苦しそうに息を詰めるが抵抗しようとはしない。


「何時だと思ってるんだい」
「けほ、……もうちょっとで昼休み」
「理解していてこの時間に登校かい?」
「……今日くもりだったから」
「それが何」
「くもりの日はしんどい」
「……それが理由になるわけないだろ」
「いっだぁ!」


何を猫みたいなこと。
怯みもせずのんびりとそう告げた彼の頭をがつんとトンファーで小突くとようやく悲鳴を上げた。
彼とは転入初日に迎えに行って以来会っていないが、一応毎日出席しているところから察するにどうにか学校までの道程は覚えられたようだ。
抵抗するつもりも逃げるつもりも無さそうなので身体を解放してやると、ほっとしたように息をついた。
そして殴られた頭をさすりながら遅刻したのは悪かったよごめん、とようやく反省の態度を見せた。
身体ごと振り返った彼はこちらの手元を指差した。


「…ところで気になってたんだけど聞いてもいい?」
「何だい」
「雲雀のその凶器って校則違反にならないの?」
「僕は武器の携帯が許可されてる」
「ええ……一体誰がそんな無責任な許可を」
「他人は関係ない。僕が秩序だ」
「何か前も言ってたなそれ。先生も風紀委員も何してんだ……」
「こうやって風紀を乱す者を咬み殺してるんだよ」
「…うん?」
「僕が風紀委員長だよ」
「へっ!? え、うそ……あ、腕章…」


左腕の腕章の存在に初めて気付いたらしい彼はぽかんと間抜けな顔をした。
並盛に住んでいる人間であれば風紀委員の雲雀恭弥の名を知らぬ者はいない。主に恐怖の対象として認識されている。
しかしこの咲山千紘はマイペースなのか鈍いのか、こちらに対して怯える様子はない。
何度か制裁を受けているはずだが警戒した様子もなく、ごく自然体で受け答えをする。
反抗的ではないにしろ不可解な態度を取る彼は赤ん坊の言うようにこの世界の人間とは少しずれているのかもしれない。
そんなことを考えていてふと彼に渡す書類が応接室にあることを思い出す。


「君、このまま応接室においで」
「応接室?」
「君に渡すものがある。教室に行っても授業には間に合わないだろ」
「まぁ確かに…わかった。……あ」
「?」


くるりと踵を返したところで、背後の彼がぽつりと声を上げた。
首だけで振り返ると通学鞄に手を当てて立ち尽くす咲山千紘と目が合う。
ぱちりと一つ瞬いた彼は、何でもないよ行こう、と歩き出した。
深刻そうな表情ではないが少し引っかかり、隣に並んだ彼に声を掛ける。


「何だい」
「ん? 別に大したことじゃないよ。昼食忘れたなぁと思って」
「……朝食は」
「食べてないよ。起きて急いで来た」
「それで午後の授業出るつもりかい」
「んー、俺食事にあんま興味無くてさ、よく忘れるんだよね」
「…………」
「腹減って困ることもないし。だから大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ」


じとりと視線を向けると彼は不思議そうに首を傾げる。何も大丈夫じゃない。
応接室で食生活について問いただせば、あまりにも食べるという行為を蔑ろにしていることが判明した。手を出してしまったが仕方がないと思う。
なんで雲雀が怒んの、と痛みのあまり涙目で訴える彼に毎日食事することを義務付ける。いまはこちらの庇護の下にあるのだ、勝手は許さない。
納得のいっていないような彼に無理やり頷かせると、購買に昼食を買いに行かせた。


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2018.08.05 百
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