★君色の光 | ナノ 「……君はだれ?」
「おや、さすがですねぇ」


鋭い視線を向ける雲雀に満足そうにぷっくりとした唇を吊り上げる。
両手を持ち上げて敵意はないことを示しながら答える声は少女である見た目にそぐわず低い。
眼帯をしたこの少女は霧の守護者としてリング争奪戦に参加していたクローム髑髏に他ならない。
しかし今彼女から感じる気配は全くの別物。知らない気配ではないが知っているものとも少し違う。
違和感に眉を寄せる雲雀にゆっくりと近付き、ベッドに眠る人物の顔が見えるところで立ち止まる。


「一応配慮して声は僕のものにしたんですが、必要なかったですかね」
「何言ってるの? 君のことは知らない」
「見事です。僕が君の知る僕でないことまで感じ取るとは」
「…………」
「クフフ、改めて初めましてとでも言っておきましょうか。六道骸です」


小首を傾げて名を告げれば、不愉快そうに雲雀の眉間に皺が刻まれる。
今クロームの身体を支配しているのは六道骸で間違いないが、雲雀の言う通り雲雀の知る六道骸ではない。今回特殊な事情で強引に行った憑依のため姿まで投影することはできなかった。
それでも本来であれば不可能な憑依のため声だけでも自身のものにできたことは相当な評価点ではあるのだが。


「お気に召しませんか? これでもかなり上出来なんですけどねぇ」
「知らない君に構うほど僕は暇じゃない」
「奇遇ですね。僕も忙しい身ですので本題に入りましょうか」
「…どっちの件だい? 千紘の件か、沢田綱吉の件か」
「クフフ、まずは千紘の件です」


ぴくりと小さく反応を返した雲雀から、ベッドの主へと視線を滑らせる。
柔らかな色合いの髪をしたその人物は咲山千紘。至近距離で会話をしているにも関わらず一切の反応はなく、僅かな呼吸音が無ければ生きているのかすら怪しまれるほどに生気がない。
確か彼から聞いた話によれば、リング争奪戦が終わった翌日から千紘は目を覚まさず昏々と眠り続けている。そして時を同じくしてアルコバレーノのリボーン、そして沢田綱吉らも相次いで姿を眩ませているはずだ。
そちらの顛末は嫌でも判明するだろうが、千紘に関してはあまり猶予が無いだろうことが窺える。身体を維持するだけの最低限度の活動しかしていないこの身体はそう長くは持たないだろう。
状況の整理をしながら雲雀へと視線を戻せば、先程までの苛立った表情は消えて真っ直ぐにこちらを見据えていた。相手が誰であろうと話を聞く必要があると判断する嗅覚はさすが雲雀恭弥と言ったところか。
笑みを湛えたままクロームの華奢な人差し指を立てて雲雀を見上げる。


「最初に伝えておきますが、今の僕が口に出来る情報には制限があります」
「……具体的なことは言えないってこと?」
「ええ。本来ならば君とこうして会話することすらタブーです」
「ふうん」
「そして僕は答えは持っていない。知っているのは結果のみです」
「へえ。君がどこにいる六道骸なのかなんとなくわかったよ」
「クフフ、その獣並の勘が冴えることを願いますよ」
「君からの情報はもういらない。僕の質問に答えてくれればいいよ」
「構いませんよ。どうぞ」


獲物を狙う肉食動物のようにじっと強い視線を逸らさない雲雀は唇を緩める。
六道との会話から前提として必要な情報を得た雲雀は会話の主導権を奪う。答えを持たない六道が持っているのは確信に近い推測。つまりこの件に関して当事者ではなかったということだ。
それならば使える言葉に制限のある六道の回りくどい言葉を聞くより、こちらの質問に答えさせたほうが早い。
そんな雲雀に笑みを深めた六道は静かに先を促す。


「君が結果を知っているのはなぜ?」
「聞いたからですよ。詳しい方法まではどちらからも聞き出せませんでしたが」
「今の千紘に君は干渉できるのかい?」
「…いいえ。千紘の意識がある場所に見当はついていますが、僕は手を出せない」
「赤ん坊や沢田綱吉たちが消えたこととの関係は?」
「それと千紘の件は別件です。それであれば肉体ごと消え去るはずですから」
「へえ、この件についても何か知っているような口ぶりだね」
「今の君よりはね。結果的にはどちらも君ほどではありませんよ」
「……?」
「この件はさておき。千紘を呼び戻すには道を繋げる必要があります」
「……君、制約があるって言ってた割にはよくしゃべるね」
「わざわざ苦労してここに来たんです。君に正解を導かせる必要があります」
「最後に聞くけど、君がその結果にしたい理由はなに?」
「クフフ、もちろん僕の目的の為ですよ。実現のためには君たち2人が必要ですから」


淡々としていながらも的を射た質問をする雲雀に、六道は敢えて言葉多く返答する。
前置きした通り、持っている知識を具体的に伝えることは禁忌である。しかし直接的でなくても細かい言葉の言い回しで伝えることは出来る。幼いとはいえ相手が雲雀恭弥であれば難しいことでもない。
思惑通りしっかりと言葉に散りばめたヒントを掬い取った雲雀はもういいよ、と六道の言葉を遮る。


「必要な情報は集まったから君帰っていいよ」
「つれないですねぇ。君のことだから僕の正体が分かれば飛び掛かってくるかと」
「僕が咬み殺したいのは君じゃない」
「クフフ、憎たらしいほどに冷静ですね君は。では最後に1つだけ」
「?」
「沢田綱吉と同様であれば心配は不要です」
「……君にも用事ができた。返しに行くから待ってなよ」
「クフフ、楽しみにしておきましょう。では」


きつく睨み据える雲雀に微笑むと、くるりと踵を返して千紘の部屋を後にする。
思っていたよりもスムーズに事が運びそうだ。そういえばあの雲雀恭弥という男は見掛けによらずずっと柔軟な思考の持ち主であった。加えて勘も良い。
恐らくすでに千紘を呼び戻すための鍵は見つけているだろう。千紘とあの男だけが知っているであろう繋がり。それをあとは両方で条件を揃えれば良い。


「…少し、優し過ぎましたかねぇ」


クロームの身体を黒曜へと向かわせながら独り言ちる。
しかし自身の目的の為にもこの件は解決してもらわなければ困る。これを乗り越えさせ、滞りなくあの男たちの計画を成功させた上で利用する必要がある。
とはいえ最後の助言は我ながら親切すぎたかもしれない。
くつりと一つ笑えばゆらりと視界がぶれる。どうやらタイムリミットのようだ。
都合上今回の憑依についてはクロームに記憶が残らないようにしているために意思の疎通はできない。
物陰に身を屈めて瞼を閉じ、霞んだ視界を遮断する。
そしてクロームの身体から離れる直前、声にならない声で呟く。
お前もしっかり僕に辿り着くんですよ、可愛いクローム。


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2020.06.01 百
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