★君色の光 | ナノ 「……ツナ!」
「! 千紘!」


一週間ぶりに会う友人の名前を呼べば、振り返った彼は笑顔で応えてくれた。
いつものように登校した千紘は相変わらず空席となっている沢田たちの席に小さく溜息をつく。
今日も休みなのか、と肩を落としていると携帯にメッセージが届く。その送り主に千紘は目を見開く。
話があるから少し教室抜けられる? という内容にすぐに快諾の返事をして教室を飛び出した。
そして指定された場所へと急いで向かえば、久しぶりに見るツンツンとした茶色い頭と小柄な背中に思わず声を張り上げる。
振り返った沢田の優しい瞳に安心したように眉を下げた千紘は、小走りで近付く。


「ツナ、久しぶり…!」
「久しぶり! ごめんね、連絡できてなくて」
「ううん。元気そうで良かった」


白い頬を僅かに紅潮させて嬉しそうに微笑む千紘に、沢田も笑顔を返す。
普段はどちらかといえば大人しくて落ち着いていることの多い千紘が、感情を分かり易く表に出すのは珍しい。
かわいらしいと思う反面、それほどに自分たちのことを気に掛けていたのだと思うと心苦しくなる。


「獄寺たちも来るの?」
「ううん、今日はオレだけなんだ」
「…そっか。笹川さんも心配してたよ」
「うん。京子ちゃんにはさっき会ったんだ」
「それなら良かった」


休んでいる間、事情を話せない為千紘にはほとんど連絡をしていなかった。もちろん修業が激しくてゆっくり連絡する余裕が無かったのも理由の一つではあったが。
病気で休んでいる訳ではないので心配はいらない、とだけ告げていたが一週間も音信不通であれば心配しないはずがない。
当然休んでいた間のことが気になっているだろうが、千紘は言及せずに柔らかく微笑む。詮索すれば沢田が困ることが分かっているのだろう。
そんな千紘の心遣いに沢田は意を決する。
優しい友人にこれ以上負担を掛けたくない。


「…千紘、君に話さなくちゃいけないことがあるんだ」
「……それって、ボンゴレのこと?」
「…うん」
「…………」


雰囲気の変わった沢田の真剣な視線に、千紘は気圧されたように瞳を揺らした。
それでも視線は逸らさずに一旦唇を閉じ、確認するように問いかける。話がある、と言われた時点で恐らくボンゴレのことだろうと予想はしていた。
ぎゅ、と掌を握り締めた千紘も、覚悟を決めたように真っ直ぐに沢田を見つめる。


「…気になってたけど、その話は俺が聞いてもいいの?」
「え、」
「俺は、誘ってもらって確かにボンゴレの一員になるって言ったよ」
「…………」
「嬉しかったし、みんなと一緒にいたかったから」
「…うん」
「……でも、俺が思ってたよりも、ずっと真剣な世界だった」


夏休みのあの日、リボーンから非戦闘員でも構わないと言われて一員となることを承諾した。
沢田がマフィアのボス候補ということもリボーンが殺し屋であるということも、千紘の中では現実味がなくどこか遠いものとしてしか受け止められなかった。
しかし六道の一件で生死に関わる大怪我をする雲雀や沢田を目の当たりにして、ようやく危険な世界だという実感を得た。
その頃から千紘はずっと迷っていた。軽はずみに引き受けてしまって良かったのか、と。


「…俺は、足手まといにしかならないと思う」
「……千紘…」
「戦えない俺が関わって、迷惑にはならないの…?」
「それは大丈夫だぞ」
「!」
「リボーン…?」


瞳を滲ませながらゆっくりと瞬く千紘は寂しげに微笑んだ。
その表情と抱えた想いに胸を締め付けられて沢田は言葉を紡げないでいた。非力であることを自他ともに認めているからこそ、ボンゴレと関わることを躊躇して一人で悩んでいたのだ。
自分が危険に晒される恐怖よりも、誰かが傷付くことを恐れて。
縋るように沢田に問いかけた頼りない声に、リボーンのぴんと張った声が力強く答える。


「前も言っただろ?戦うことが全てじゃない」
「……でも、」
「心配すんな。お前にしかできないことがちゃんとある」
「…? そんなのある…?」
「ああ。それも含めて現状をお前に説明してーんだ」
「…………」
「それを聞いた上で改めてお前の意思を聞かせてくれ」
「………うん」
「お前に謝らなきゃならねーこともあるからな」
「…?」
「場所を移すぞ。アイツも同席した場で話す条件だからな」
「あいつ…?」


ひらりと窓から入ってきたリボーンは、いつものように飄々とした笑みを浮かべる。
不安そうな千紘と視線をしっかりと合わせて、反応を確かめながら話を進めていく。
無理強いをするつもりはないから安心しろ、とはっきりと告げるとようやく千紘はこくりと頷く。
にっ、と笑うとリボーンが話し合いの場へと歩き出す。それに沢田と千紘も続く。ちらりと横目で千紘の様子を窺うが、思いつめたように表情を強張らせていた。長い睫毛も地面へと向けられている。
しばらく無言で歩いた先、ここだぞ、と告げるリボーンの声に千紘は顔を上げる。
見上げた先、見慣れた扉とその横に立つ人物に千紘は大きく目を見開いた。


「…待ってたよ、赤ん坊」
「ああ。待たせてわりーな、ヒバリ」


獰猛に光る瞳を細めた雲雀は、背中を預けていた壁から身を離す。
そして千紘に視線を留めたかと思うと、じとりとリボーンを見遣る。


「赤ん坊、千紘に話したのかい」
「まだ何も話してねーぞ」
「ふうん。じゃあ怖がらせたのかな」
「ダメツナが不安にさせる言い方はしたかもな」
「んなっ!?? オレはそんなつもりは…!!」
「へえ、咬み殺そうか」
「ヒィ……!!」


一瞥して千紘の様子がおかしいことを見抜いた雲雀は、トンファーを構える。
事実と言えば事実ではあるが、リボーンの告げ口により標的にされた沢田は恐怖で竦み上がる。
話し合いの場として提供されたのは応接室。事前にリボーンが雲雀へと打診し、雲雀が同席することを条件として千紘に現状を話すことを承諾したのだ。
雲雀がいると聞いた時点で全力で辞退したが、ボスのお前がいなくてどうする、とリボーンに秒で沈められた沢田に逃げる術はなかった。
結局この場は千紘が慌てて仲裁に入ってくれたおかげで制裁は免れたが、これからこのメンバーで密室状態になると思うと気が重くて仕方がなかった。


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2019.10.15 百
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