★君色の光 | ナノ 「……うーん」


学校帰り、夕暮れに差し掛かる通学路を一人歩きながら千紘は頭を捻る。
いつも通り学校に行って授業を受けてきたのだが、ここ数日千紘は違和感を感じていた。
それは沢田、山本、獄寺、雲雀について。四人とも同じ日を境としてぱったりと学校に来ていないのだ。
同じクラスである沢田たちについてはホームルームで担任から連絡があるが、詳しい理由までは告げられない。
体調不良だろうかと沢田にメールをしてみたりもしたが、元気だけどしばらく行けないんだごめんね、とだけ返信があった。そう言われてしまうとそれ以上聞くこともできなかった。
雲雀に関しては欠席しているのか、もしくはたまたま会わないだけなのか不明だが姿は見ていない。
一般生徒とはかけ離れた生活をしている雲雀なので、基本的には雲雀からの呼び出しがなければ会うことはほぼない。
たまに校内パトロールをしている姿を遠目に見掛けることもあるのだが、ここ数日はそれも無い。
あの四人以外とほとんど交流を持たない千紘は、持て余した時間で思考を巡らせていた。
そして辿り着いた結論。


「……絶対ボンゴレ関連だよなぁ」


色々と考えてはみたが、それしか考えられない。
しかも次期ボンゴレボス候補である沢田を守るための守護者として勧誘されていたメンバー。千紘もメンバーとして声を掛けられてはいたが、あくまで非戦闘員としてである。
つまりは戦える候補者たちが何かしら危険なことに巻き込まれて、その事態に非力な千紘を関わらせないために敢えて情報を知らせていないのだろう。
六道の件で自分が関わった所為で沢田たちに大怪我をさせてしまった自覚のある千紘からすると、下手に詮索はせず大人しくしているしかない。自分の所為で誰かに怪我をさせるのはもう二度と御免だ。
そう頭では理解できているが、大切な友人たちが置かれている状況が気にならないはずがない。
はぁ、と重い溜息をついた千紘は曲がり角を曲がる。すると角のすぐ先に人が立っており、その背中にぶつかりかけた千紘は慌てて脚を止める。
寸でのところで衝突を免れたが、くるりとこちらを振り向いた相手は口元を弓なりに吊り上げた。


「っぅ、わっ、!」
「ねぇお前、さっきボンゴレって言った?」
「え?」
「守護者じゃあないか。この前はいなかったし?」
「…よそ見してました、すみません、」


さらりと金髪を揺らす男の目元は長い前髪に覆われて見えない。見たところ年齢はそこまで離れていない。
軽い口調ではあるがどことなく威圧感があり、ボンゴレという組織について知っている時点でおそらく堅気ではない。関係者か敵かのどちらかだ。
知らずにぞわりと背筋の震えた千紘は、頭を下げて非を詫びるとそのまま横をすり抜けて離れようとする。無駄な接触はしないほうが賢明だ。
しかしすれ違いざまに強い力で腕を掴まれた千紘は痛みに思わず呻く。


「ちょ〜っと待ちなって」
「い、った、…!」
「お前の顔、どっかで見たことあるんだよなぁ」
「っ俺は、知りません。人違いじゃ、」
「会ったっていうか写真? だったかも?」
「…写真?」
「もっといろんなカオ見たら思い出すかもなぁ?」
「う、ぅ…っ、」


髪の隙間からじろじろと顔を観察しているらしい男に、千紘はますます不信感を募らせる。
骨が軋むほどの力で掴まれた腕に顔を歪める千紘に男は愉快そうに大きく歯を剥きだして笑う。
そのまま千紘を塀へと押し付けた男は、片方の手で一瞬で取り出したナイフをぴたりと千紘の頬に添える。
頬に感じる金属の冷たさとナイフの柄を視界に認めた千紘は、ひくりと喉を引き攣らせる。
弱さを見せまいと気丈に睨み上げていた柔らかい色の瞳にはっきりと恐怖が滲んだことに、男はさらに愉しげに口元を歪ませた。


「…っ」
「ししっ、へぇ、結構イイ表情するじゃん」
「………」
「お前綺麗な目してんね。1個くり抜いてあげよっか」
「………っ、」
「震えてんの? ししっ、オレ王子だし天才だから失敗はしねーよ」


恐怖で固まる千紘の頬にするするとナイフを滑らせる。少しでも力を入れれば簡単に皮膚が裂けてしまうだろう。
いよいよ言葉も失い身体を震わせる千紘に満足そうに笑みを深くした男は、くるりとナイフを構え直した。
そのとき。


「だめだよベル。そいつには手を出しちゃ」
「あ? なんだよマーモン。いたのかよ」
「連絡があっただろ。そいつも一応ボンゴレだよ」
「そーだっけ? 見たような気はすんだけど」


子ども特有の細く高い声が響き、男の意識が千紘から離れる。
いつの間に現れたのか塀の上には黒いマントをすっぽりと被った赤ん坊がいた。リボーンと変わらないくらいで、普通に考えれば言葉を話せる大きさではない。
しかし間違いなくその赤ん坊から放たれる言葉に、ベルと呼ばれた金髪の男の動きが止まる。まだ腕は解放されていないが僅かに離れたナイフに千紘は細く息をつく。
この赤ん坊は、もしかして助けてくれるのだろうか。
いつナイフを向けられるのかわからない状態で身動きの取れない千紘は黙って二人の様子を窺うしかない。


「もう忘れたのかい? そいつは咲山千紘だよ」
「…!」
「咲山千紘? なんだっけ?」
「思い出せないなら好きにするといい。でも僕は知らないからね」
「うわムカツク。殺してやろっかな」
「やるかい?」


初対面の赤ん坊に名前を言い当てられた千紘は戸惑う。リボーンの知り合い、だろうか。
顔の位置は動かさないまま視線だけを赤ん坊に向ける。しかしやはり見覚えはない。
どうやらベルに忠告をしに来ただけで積極的に助けてくれる訳ではないらしい赤ん坊は、千紘の視線には応えない。
殺伐としたやり取りで双方とも殺気を滲ませ始めたので千紘は再び竦みあがる。
どうしようこわい。
おろおろと視線を彷徨わせる千紘を見て、何かに思い当たったのかベルが大きめの声を上げる。
敵意の無いそれすら恐怖でしかない千紘は肩を跳ね上げる。


「あー! 思い出した! 咲山千紘ね!」
「ひっ、」
「ふ〜ん、お前がね。こんな弱っちいのにレア物か〜」
「…? レア物、って、」
「え? 何、お前もしかして自覚ないの?」
「ベル。それ一応機密事項だよ」
「そーだっけ? まぁレア物なら仕方ないか。ハイ、離してやるよ」
「ゎ、…っ、」


改めてじっと千紘の顔を確認したベルはぱっと腕を離す。その手にはもうナイフは握られていない。
恐怖から腰の抜けていた千紘は急に解放された身体を支えきれずにへたり込む。レア物、とはどういう意味なのか。
戸惑って揺れる瞳で見上げた千紘に愉しそうに笑うと、ベルは千紘に合わせてしゃがみ込む。
縮まった距離にびくりと身を竦ませた千紘に満足そうにぽん、と小さな頭に手を乗せる。


「お前とは近々会うだろうし、そん時に遊んでやるよ」
「……い、いいです……」
「エンリョすんなって。どうせオレらが勝ってお前もオレらのモンになるし」
「? 何の話を…」
「行くよベル。そろそろ召集の時間だ」
「はいよ。じゃあな、gattino」


踵を返した赤ん坊に続いてベルも立ち上がるとひらひらと手を振って歩いていった。
恐怖で身体を強張らせていた千紘は、二人の姿が見えなくなってようやく脱力する。こわかった。
ベルという男が言っていた言葉の意味は分からない。身に覚えもないしあの男が適当なことを言っただけの可能性もある。
漠然とした不安を抱えながらも、とりあえずもう会うことはありませんようにと祈りながら千紘はようやく立ち上がる。
しかし千紘の思いも虚しく、数日後再びこの二人と顔を合わせることとなる。


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2019.07.14 百
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