★君色の光 | ナノ 「さて、どうしようかな」
「………………」


ベッドに沈めた千紘の上で雲雀が呟く。
表情は至って静かでうっすら細められた瞳は美しくすらある。しかしそこに宿る剣呑な光が雲雀の穏やかでない心中を雄弁に語っている。妥協してくれそうな気配は一切無い。
あまりの威圧感に千紘はごくりと唾を呑み込み、大人しく口を噤む。不用意なことを言ったら即殺されそうだ。ギャン泣きしそう。こわ!
そんな千紘をじっと見下ろした雲雀は、一つ瞬くと片手を持ち上げる。何をするつもりなのかとその動きを視線で追っていると、その手はするりと千紘の頬に添えられた。予想外の雲雀の指の感触に思わず肩を竦めるが、構わずに親指で唇をなぞられる。
くすぐったさを感じながら、千紘は戸惑って雲雀を見上げる。


「…っ、な、何…?」
「キス」
「!? は、はぁ!?」
「されたらしいね」
「な、何で知ってんの…!?」
「ワオ、本当なんだ。気に入らないな」


キスという単語に素直に動揺して墓穴を掘った千紘に、雲雀は小首を傾げながら唇を吊り上げた。
電話口で喘ぎ声と言っても良いような声を聞かされた時点で予想はついていたし、沢田綱吉からもわざわざ事前報告があった。真偽の程は本人に確認するまでもないが、自覚させる必要は大いにある。
六道にキスされたことを雲雀に知られているという事実に、千紘は恥辱で更に顔を赤く染める。今すぐ逃げ出したい。ていうか知っててなんでこんな傷抉ってくんだよお前…!
別に千紘から仕掛けた訳でもないし不可抗力であったとはいえ、居た堪れない気持ちになるのはどうしようもない。雲雀の視線に晒されるのにも限界で、顔を背けようにもいつの間にやらしっかり顎を固定されている。苦肉の策で千紘は両手で自身の顔を覆う。もう無理! 帰りたい!


「……もう勘弁して……!」
「まだ何も君の口から聞いてない」
「お前もう知ってるじゃん…! キ、キスされただけ!」
「どんなの?」
「ど…!? 誰が言うか! もー帰る…!」
「口を割るまでは帰さない」
「絶っ対言わない!」
「じゃあ仕方ないね」
「…っん、!?」


雲雀の下から抜け出そうと身体を捩るが、跨られている為起き上がることすら出来ない。暴れようにもどうしても雲雀の怪我が脳裏を掠め、全力どころか身体に触れるのすら躊躇する。万が一にでも押した箇所が骨折でもしていたらと思うと気が気じゃない。
出来そうなことといえば言葉での反抗と、顔に添えられた手をやんわり押し返すことくらいしかない。
そんな中途半端な抵抗に雲雀が応じる筈も無く、千紘の顎を固定したまま顔を隠していた手を押さえつけて唇を塞ぐ。
驚いた千紘は大きく目を見開いて身体を硬直させる。......ん?
至近距離すぎてぼやける視界いっぱいに映るのは雲雀の顔。額には雲雀から流れた柔らかい黒髪の感触、そして唇に触れる熱に一瞬止まった頭がようやく状況を理解する。
……ん!? キスされてる!?


「ん、んんーっ! ん…っ、んー!」
「……、されたのはこのキス?」
「っぷはっ、! な、何す、」
「それともこっち?」
「ん…っ、!? ゃ、…ん、っぁ、うぅ、…っ」
「答えて、千紘」
「ふ、ぁ…っ、ん、んぅ…っ、ん、」


身体で抵抗出来ない千紘は塞がれた口で文句を言おうとするが、雲雀に呑み込まれる。
苦しそうにする千紘に一旦酸素を取り込ませてやるように口を離すと、すぐに雲雀はもう一度口付ける。しかし今度は口を塞ぐだけではない。
薄く開いていた千紘の口の中に舌を押し込むと、入り込んできた異物に千紘が怯えるようにびくりと身体を強張らせた。狭い口腔内で雲雀の舌が動く度にぞくぞくと背筋が震える。何だ、これ。
逃げようとする小さな顔をしっかりと固定して唇や舌を甘噛みしたり吸ったりして千紘に刺激を与える。
キスという行為自体が雲雀としたのが初体験だった千紘が、甘やかな刺激に対して抗える訳も無い。
未知の感覚が恐ろしくなって逃げようと身動ぎするが、与えられる刺激に次第に意識が占領されていく。何も考えられない。
伏せられた睫毛は涙で濡れ、目元も赤く染まっている。口を開かれている所為で小さくではあるが甘い声も漏れ出てしまっている。
ぐっと背筋を反らせてびく、と震える小さな身体。普段はあどけなさすらある千紘が刺激に翻弄されて綻ぶこの姿を、自分以外の人間が見たのだと思うとどうしても勘に障る。
これは自分の物だ。
上がる声が濡れてきたところで、ようやく雲雀は口を解放してやる。


「っ、はぁっ、は…っ、…っふ…っ、」
「……ん。どっちのされたの?」
「…も、どうせ分かってる、くせに」
「自分で言わせないと躾にならないだろ」
「…俺の飼い主ですか……」
「そうだよ」
「…………」


くったりとベッドに四肢を投げ出した千紘は、最早抵抗する気力すらなく赤く火照った顔で重たげに瞬く。
鼻をぐずぐず言わせながら千紘は恨めしそうに雲雀を睨むが、とろりと甘く潤む瞳では迫力はない。
躾という単語に文句を言ってみても事も無げに肯定されて閉口する。そこは否定してくれてもいいんじゃない。
しかしよく考えれば、確かに雲雀は千紘にとってこの世界での保護者のような立場で、色々と世話をしてもらっているお陰でこうして生きている。『飼い主』という表現もあながち間違いではないような気もしてくる。
ということはさっきの『僕のもの』発言もあれか、ペットに対するみたいなもんか。雲雀って所有物に対する執着強そうだもんな。
でも仮にペットだとしたらべろちゅーはやりすぎじゃね…とどうでもいい方向に思考が向かったところで、それ以上頭を使うのを諦める。もう色々とキャパオーバーだ。ライフは0よ。
千紘は観念したように大きく息をついた。



「…はー、こっちのキスされた...舌入れるほう」
「そう。他には?」
「されてない……と思う」
「君ね、しっかりしなよ」
「あんま覚えてないよ。頭ぼーっとしてたし」
「…………」
「そもそも骸がなんでキスしてきたのか知らないけど、大丈夫だと思う。男同士だし」
「だからそういうところが自覚が足りないって言ってるんだよ」
「…なんか雲雀、心配性じゃない? むしろ美人な雲雀の方が危ないと俺は思う」
「咬み殺す」
「いったぁっ!!」


真剣な顔をして何を言うのかと思えば。
六道に襲われたことで多少なりとも貞操観念を持ったのかと思ったのも束の間、あろうことかこちらの心配をしてきた千紘に雲雀は容赦なくトンファーを振り下ろす。誰に物を言ってるんだい。
千紘の言うように雲雀は整った顔立ちをしているが、並大抵の者に力ずくでどうにかされるほど弱くない。千紘とは根本的に周囲からの見られ方も身体の造りも違うのだ。
がつん、と振り下ろされた武器に悲鳴を上げた千紘にようやく雲雀の苛立ちが幾分和らぐ。まだ六道にも制裁を加えていないし、千紘への躾も不十分ではあるが。
男に狙われる可能性があること、そして自分の所有権が誰にあるのかを認識させられただけでも、この無頓着な子どもに対しては及第点だろう。
つーかお前身体大丈夫なの、と痛みで涙目になりながらも確認してきた千紘に微笑んでやると、ぶわっと顔を赤く染めた。どうにもこの顔は千紘には効果抜群らしい。
理解はできないが、まぁ気分は悪くない。


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2018.11.16 百
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