★君色の光 | ナノ 「いい加減起きろダメツナめ」
「ぶっ!? な、何すんだよリボーン!」


ばちーん、と寝ている沢田の頬をリボーンが勢い良く張っ倒す。
決して惰眠ではなく身体の回復の為に寝込んでいたのだが、強制的に覚醒させられた沢田は即時に噛みつく。起こすにしたって殴ることないだろ!
それにリボーンは満足気に宣う。


「起き抜けにしちゃ中々の反応だな」
「理不尽な暴力反対! …まぁ、お前に言っても仕方ないけど…」
「身体も回復してるみてーだな」
「へ? あ、そっかオレ気絶したんだっけ…みんなは?」
「無事だぞ。獄寺と山本はまだ寝てるけどな」
「大怪我してたもんな。でも、とりあえず無事で良かったよ」


全員の無事を確認した沢田は気が抜けたように眉を下げて微笑んだ。本当に良かった。
六道の騒動で最後まで意識を保っていたのは一体何の間違いなのか最弱な自分で、決着を着けたのも自分だった。思い返してみてもあんな相手に良く勝てたものだと思う。もう二度とごめんだ。
医療班が駆けつけてくれたところまでは記憶があるが、その後皆がどうなったのか気が気じゃなかったので安心した。自分も含め、丈夫な身体の造りに感謝しなくては。
そこで一人、そうではない人物がいたことを思い出す。


「あっ! 千紘は!?」
「大丈夫だ。もう退院して学校にも通ってるぞ」
「よ、良かった〜〜!」
「毎日放課後に全員の見舞いに来てるぞ。明日ちゃんと出迎えてやれよ」
「うん。心配させちゃったもんな」


目立った外傷は無かったが、自分達とは違って繊細そうな千紘も元気だと聞いて安堵する。
裏で千紘の知らない様々な思惑があったとはいえ、当事者として巻き込まれたのだ。きっと色々苦しかったに違いない。早く安心させてあげないと。
そう思っているとリボーンから爆弾発言が落ちてきた。


「さて、お前はヒバリの病室に行け」
「はぁ!?? 何で!? つーかヒバリさんまだ寝てるんだろ?」
「いや、あいつもついさっき目を覚ましたらしい」
「あんな重傷だったのにさすがヒバリさん…」
「千紘が帰った後に起きたみてーだな。明日千紘に会う前にお前が行け」
「だから何で!! 怖いしやだよ!」
「何でじゃねーぞ」
「いてーー!!」


ばしーん、と今度は逆頬を叩かれる。いちいち攻撃が強すぎるんだよお前!
涙目になりながら奴を睨むが意にも介していないようで、容赦なくベッドから引きずり降ろされて連行される。えっ本気なの? 本気でヒバリさんのとこ連れてくつもりなの!?
普段から雲雀は危険人物だ。本人の中での基準に従って制裁を加えているのだろうが、こちらからすれば何が地雷なのか皆目見当もつかない。なので近寄らないのが一番安全なのだ。
それに今回は執念で六道に一矢報いたとはいえ、雲雀の怒りが治まっているとは到底思えない。しかも今入院していて大好きな学校にも通えていないというフラストレーションも溜まりまくっているだろう。超危険だ。
せっかく六道から生還できたというのに何故そんな死地に赴かなくてはならないのか。絶対に嫌だ!


「い、嫌だ!! 行きたくない!!」
「ボスのお前からヒバリに伝えることがあるだろ。じたばたすんな」
「ボスじゃねーし!! オレから伝えることって何だよ!」
「今回の顛末と、千紘のことがあるだろ」
「骸のことはまぁ分からなくはないけど、千紘のことって何かあったっけ?」


全力の抵抗を物ともせず、迷いなく進むリボーンについに沢田は抵抗を諦める。拒否権なんてものは元々存在しないのだ。
大人しくなったのを確認したリボーンは引き摺っていた手を離すと、肩に乗ってきた。すぐにでも逃げ出したいがこの殺し屋を振り切れる気がしない。渋々ながら立ち上がると雲雀の病室を目指して歩き出す。
横目でリボーンの表情を窺うが、いつも通り飄々としていて掴めない。しかし嫌がらせや悪ふざけではなさそうだ。
雲雀が気絶した後に六道が収監されたことは伝えておくべきだと思うが、千紘に関しては明日見舞いに来た際に無事は確認できる。事前に伝えておくことがあっただろうか。六道絡みで?
そこまで考えて、はっと気が付く。そうだ、あの六道という男、千紘にキスをしたと満足気に言い放っていた。あの時雲雀は既に気を失っていたが、もし聞かれていたらと肝を冷やした。
以前雲雀から直接『千紘は僕のもの』との発言を聞いてしまっている。この発言の真意については沢田と雲雀の間で多少の食い違いが起きているが、何にせよ気に掛けている千紘に手を出されて黙っている訳が無い。


「無理無理無理無理!! オレからは言えないって!! 咬み殺される!!」
「どうだかな。だが千紘から言わせるのは酷だろ?」
「そ、それはそうだけど何でオレ!? お前が言えば良」
「ここがヒバリの病室だ。入るぞ」
「ヒィィ心の準備させろよ…!!」
「……沢田綱吉、何の真似だい」


こ、こえええ!! 既に声がめちゃくちゃ怒ってる!!
抗議の途中で言葉を遮られた挙句、間髪入れずにリボーンは雲雀の病室を開け放つ。
あまりの恐怖に半分以上白目を剥きながら立ち竦んでいると、容赦なくリボーンに蹴飛ばされて雲雀のベッド脇に崩れ落ちる。近付いた所為で半端無く深い皺が刻まれている眉間がよく見えてしまった。だめだ意識飛びそう。
刃物のように鋭い眼光で睨み付けられてがたがたと震えていると、ゆっくり歩いてきたリボーンが呑気に声を掛ける。


「ちゃおっス、ヒバリ。元気そーだな」
「……今、僕は機嫌が悪い。赤ん坊でも咬み殺すよ」
「まぁ待て。千紘のことでツナから話があるんだ。聞いて損はねーだろ?」
「……へぇ。言ってごらんよ沢田綱吉」
「はっ、はい! あの、ええと千紘なんですけど、その、骸にキスされちゃったらしくて!」
「……………」
「それで、その! ヒバリさんと千紘、そういう関係みたいなので報告に…!」
「あの男は」
「へっ!? あ、骸ですか? あいつは復讐者ってのに捕まって…」


意を決して伝えてみたが、予想に反して雲雀から大きな反応は無かった。元々の機嫌が悪すぎて分からなかっただけだろうか。
そのことにほんの少しだけ安堵して、聞かれたことに答えていく。六道が脱獄すら出来ない監獄に収監されたことを伝えると、気に食わなさそうにむすっと口をへの字に曲げていた。サクラクラ病という不名誉な弱点と千紘を利用した相手のことをまだ許してはいないようだ。
一通りの説明が終わると、雲雀はきつく見据えていた瞳を逸らすと身体を起こそうとする。さすがにまだ絶対安静のはずなので慌ててストップをかける。


「ヒバリさん!? まだ動いちゃだめですって!」
「うるさい。もう君に用はないよ」
「学校にでも行くつもりか?もう夜だ。明日にしろ」
「どうして。並中は僕のものだ」
「どんだけ学校好きなんですか!?」
「焦らなくても千紘は明日連れてきてやる」
「…………」
「ツナがな」
「オレかよ! なんでオレが…ヒィィッ!」


沢田の言葉をすげなく切り捨てて起き上がろうとする雲雀に、リボーンからも待ったが掛かる。
まだ回復しきっていないどころか傷口すら塞がっていない程弱っている筈だが、吊り上がった瞳の強さはそれを一切感じさせない。清々しいほどに真っすぐだ。
不愉快だという感情を前面に乗せて睨んでくるがリボーンは動じない。不敵ににやりと笑うと千紘を引き合いに出してくる。いや、そこは自分が連れてくるって言えよ!
突っ込もうとしたが瞬時にリボーンに銃を突きつけられて情けない悲鳴が上がる。ちょっと理不尽すぎない!?
しかし効果があったようで、雲雀は少し思案するように黙り込むとふい、と顔を背けてベッドへと身体を沈めた。千紘を連れてきたらすぐ帰ってよ、と告げられて恐怖から反射的に肯定の返事をしてしまう。だめだ、これもう逃げられない…終わった。
すごすごと雲雀の病室の扉を閉めて廊下に出ると、千紘に心の中で謝る。
ごめん千紘、明日君を猛獣のところに置き去りにします。


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2018.11.03 百
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