★君色の光 | ナノ 「…おや、雛鳥が逃げたしたみたいですね」
「は?」


対峙している六道がぽつりと呟いた言葉に沢田は首を傾げる。
対峙とは言ってもランチアのところで最後の死ぬ気弾を使ってしまい、生身の沢田は一方的に押されている。というか勝てる筈がない。
聞き返した沢田に答えるでもなく、再び攻撃を始めた六道の呼び出した蛇に咬まれそうになったとき、沢田の周りで爆発が起こる。


「十代目! おそくなりました」
「! ヒバリさん! 獄寺君!」
「…これはこれは外野がゾロゾロと」
「ツナ! 無事か!」
「千紘!? 千紘もここに来てたの!?」


沢田を救ったのは獄寺で、雲雀に肩を借りた状態で爆弾を投げてくれたようだ。あのヒバリさんが群れてる…!
そう思った直後、邪魔だと言わんばかりに獄寺を捨てる雲雀に何となくほっとする。やっぱりヒバリさんはヒバリさんだった。
獄寺も雲雀も互いに怪我が酷く、なんとか歩いているような状況だった。助けに来てくれたのは有り難いが、不利なことに変わりはない。
そんな2人の後ろからひょこっと顔を出したのは千紘。目が合うと安心したようにふわりと顔を綻ばせた。ぱっと見では目立った怪我はしていないようだが、顔色があまり良くない。もともと千紘のいた世界は喧嘩も滅多に目にしないほど平和だったと言うし、この殺伐とした状況では無理もない。
六道はちらりと獄寺たちに視線をやってから、千紘に笑いかける。それを受けた千紘は唇を引き結んで六道を睨みつけた。いつも穏やかな千紘だが、怒っているようだ。


「僕の応援に来てくれたわけではないみたいですね、千紘」
「当たり前だ。何でみんなのこと、こんな傷付けるんだ」
「クフフ、ボンゴレを炙り出すためですよ。そして僕の目標のため」
「…あさりを? さっきも言ってたけど、もしかして腹減った腹いせでこんなことしてんの?」
「えっ!? あさり!? 千紘は何の話をしてんの!?」
「てめぇ咲山ふざけてんのかコラァ!!」
「クフフ、面白い子ですねぇ」
「…まぁ間違ってはいねーな。たしかにボンゴレは日本語であさりって意味だからな」
「ええ!?そうなの!? もっとすごい意味かと思ってた…!」
「千紘にはファミリーの名前を言ってなかったからな。あれで本気だぞ」


突っ込む沢田と怒鳴る獄寺の反応に千紘はきょとんとする。いや、かわいいけども!
ボンゴレ、という言葉は何度も聞かされて知っていたが、直訳であさりという意味だとは知らなかった沢田はリボーンの言葉に合点がいく。あさり...少しショックだ。
緊迫した空気を吹き飛ばした千紘に笑い掛ける六道に苛立ったのか、雲雀が六道に突っ込んでいく。酷い怪我をしているはずだが怯んだ様子もなく、常人には見えない速度の攻防が続く。
サクラクラ病という不名誉な病も克服した雲雀はあっという間に六道を倒してしまった。
そのまま一言も発さずにトンファーを下ろした雲雀はその場に倒れ込む。さすがに限界だったのだろう。それを目にした千紘は真っ青な顔をして走り寄る。


「雲雀…っ!」
「心配すんな千紘。気を失ってるだけだぞ」
「…ほんとに? ちゃんと、生きてる…?」
「あぁ。すぐに医療チームも来る。だから泣くんじゃねぇ」
「な、泣いてないよ」
「今にも泣きそうじゃねーか。お前は自分の心配した方がいいぞ」
「え、いや。俺なんか全然怪我してないよ」
「ひでー顔色だぞ」


泣きそうになりながら雲雀の怪我をしていない方の肩を揺する千紘は痛々しく、リボーンがぺちりと千紘の鼻先を叩いて宥める。そんなリボーンを潤んだ瞳で不安そうに見返す千紘は正直ものすごくかわいい。
しかしリボーンの言う通り顔色が青いを通り越して真っ白だ。怪我は確かにしていないかもしれないが、体調が悪いのは一目瞭然だった。決着が着いたのだから早く脱出しなければ。
そんな空気を壊すように、聞こえないはずの声が響く。


「…クフフ、無理もありませんね」
「骸!? お前やられたんじゃ…!」
「十代目!」
「なんせ千紘には連れてきてから食事を与えていませんからね。頭も犬に殴られていますし」
「んなー!? じゃあ三日近く食べてないってこと!?」
「え、いや食べてないのは別に平気。たまにあるから」
「それもどうなの!!?」


むくりと起き上がった六道は千紘を流し見る。
連れて来られてから確かに食事はしていないが、気を失っていた時間もあって深刻な空腹には陥っていない。というか普通に生活していても食べることを忘れて軽く絶食になることもある千紘にとってはさしたる問題ではない。
しかしそれを聞いた沢田達にとっては大した問題である。食べていないことはもちろん、それをあまり意に介していない千紘が大問題だ。いい加減すぎる千紘の食生活に不安を抱いた沢田は、夏休みに何度か沢田家の夕食に招待した。新学期が始まって昼食は一緒に食べているので、最低1日1食は取っている筈だが少ないものは少ない。本人曰く食べなくても平気とのことだけども、死ぬから!食べないと!
そんなやり取りをしてると、いやらしく笑った骸の発言に場の空気が凍る。


「それに、キスも初めてだったでしょう?」
「!」
「え!? き、キス!??」
「あの初々しい反応、癖になりそうですよ。実に可愛らしかった」


へ、変態だー!!
ウインクまでつけた六道にぴくりと身体を強張らせた千紘は、眉を寄せて黙り込む。頭を膝に乗せた雲雀の制服をぎゅ、と握り締めた千紘の反応からして、六道の発言が事実らしいことが窺い知れる。千紘に何してくれてんだよ!
普段は千紘に素っ気ない態度を取る獄寺からは殺気が漲り、あの冷静なリボーンですら纏う空気が一気に冷たくなった。雲雀が聞いていたら更に大変なことになっていただろう。
そこで沢田はとあることに気が付く。あれ、そういえばヒバリさん、千紘は僕のものって言ってたよな? これヒバリさんの耳に入ったらやばくない?
内心冷や汗を流す沢田に構わず六道と千紘の会話は続く。


「…悪いけど初めてじゃないから」
「おや? そうですか?それにしては不慣れでしたね」
「この歳で手慣れてる方がおかしいだろ」
「まぁ確かに。教え込む余地はまだまだありそうですからねぇ」
「…俺はともかく、ツナに手出したら許さないからな」
「えっ!? そこでなんでオレ!?」
「クフ、そういう意味では無用な心配ですよ」


さっさとボンゴレの器を手に入れて、千紘もいただくとしましょうかねぇ、と呟いた六道に沢田は決心する。こいつにだけは勝ちたい。というか勝たなきゃいけない。
無関係の人間や仲間が傷付けられたことに腹が立ってるし、六道のマフィアを殲滅するという身勝手な行動も許せない。もちろん自分の身体が乗っ取られるのも回避したいが、千紘を連れて行かれてたまるか!
六道を睨んでいると、限界だったらしい千紘が気を失ってぐったりと倒れ込んだ。やはり体調を崩しているのだろう。それに男にキスされたなど精神的ストレスは半端ないだろう。
ビアンキや獄寺に憑依した六道が千紘にも憑依しようとするのをリボーンと協力して全力で阻止しながら、沢田はなんとか六道に勝利する。
これから考えなくてはいけないことが色々とあるが、とりあえず疲労感に任せて沢田は大人しく気絶することにした。


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2018.10.17 百
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