★君色の光 | ナノ 「何の用だい。咬み殺されにきたの」
「ち、違います!」


椅子に座ったままぎろりと睨み付けると沢田が青い顔をして後退る。
ここ最近、並中生が何者かに襲われるという事件が続いており風紀委員の仕事が大幅に増えた。動機も犯人も未だ不明で被害と不安が広がるばかりだ。
見回りや調査を優先しているとさすがに事務仕事が回らなくなってきた為、頻繁に千紘を呼んで書類整理を手伝わせていた。的確で仕事の早い千紘は非常に有り難かった。
しかしその千紘と一昨日の放課後から一切連絡が取れなくなった。確認したところ登校していないどころか家にも帰っていないらしい。襲撃事件と関係があるかは分からないが只事ではない。
風紀委員に事件の捜査と並行して千紘の捜索もさせているが一向に足取りは掴めず、溜まっていく書類に雲雀の苛立ちも募っていく。
そんな中怯えながら応接室に入ってきた沢田に、雲雀はトンファーを構えて立ち上がる。ストレス発散に咬み殺してやろうか。


「じゃあ何だい。僕は忙しいんだけど」
「千紘と連絡が取れないんです。学校にも来てないし…ヒバリさんならなにか知ってるかと思って」
「どうして僕が?」
「だって、千紘とヒバリさん仲良いじゃないですか」
「あの子は僕のものだからね」
「…えっ!? あれ!? やっぱりそういう関係ですか…?」
「?」


一旦固まった沢田は顔を赤くして狼狽える。薄々そうなんじゃないかと思ってはいたけど、やっぱり付き合ってたのか…!
そんな沢田の反応に雲雀は怪訝そうな表情を浮かべる。異世界から突然並盛に現れた千紘を見付けて保護しているのは雲雀だ。故に千紘の所有権は自分にある、と言う意味の発言だったが残念ながら沢田にその意図は伝わっていない。
かちゃりとトンファーを構え直すと、はっとしたように沢田は口を開いた。何をそわそわしているんだこの男。


「あっ! 別に否定してるんじゃないですよ! オレもヒバリさんと千紘ならお似合いだと思いますし!」
「何の話。咬み殺すよ」
「って、違う! 千紘のことです! ヒバリさんも知らないんですよね?」
「そうだね」
「わかりました。それじゃあ、オレは帰ります」
「待ちなよ。せっかく来たんだ、咬み殺してあげるよ」
「ええっ!? い、いらないです、ってぎゃあああ!!」


どことなく嬉しそうな顔をして帰ろうとした沢田を咬み殺して、廊下に控えていた山本と獄寺に引き渡す。獄寺は雲雀に向かってこようとしていたが無視して扉を閉めて追い返す。付き合っている暇はない。
てめーヒバリ! 覚えてろよ! と叫んだ獄寺の声が遠去かり、再び静寂に戻った応接室で雲雀は携帯を取り出す。何度か発信しているが千紘からの反応はない。
発信履歴からもう一度千紘の番号を呼び出して耳に当てる。呼び出し音を聞きながら雲雀は視線を手元の資料に向けて思案する。
千紘は無防備すぎる。一見して万人の目を惹くような華やかな外見ではないとはいえ、どことなく他人を惹きつける魅力がある。しかし当の本人がそれをあまり自覚出来ていない。その危機感の無さ故に何かしらの事件に巻き込まれた可能性が高い。だから注意しろと言っていたのに。
途切れないコールに電話を切ろうとしたその時、呼び出し音が途切れる。ブツ、と小さな音がして、電話が繋がったことに雲雀はわずかに目を見開く。


『……だれ?』
「……千紘。どこにいるんだい」
『あ、雲雀…? えっと、黒に曜日の曜…こくよう? ヘルシーランド?』
「黒曜?」


ようやく繋がった電話から聞こえてきた声は千紘本人のもので、雲雀は小さく息を吐いて居場所を問う。
何かを読み上げて地名を伝えてきた千紘に雲雀は眉を顰める。黒曜とは隣町の名前だ。並盛の地理ですらよく分かっていない千紘がなぜそんなところにいるのか。とりあえず自分の意思で向かった訳ではなさそうだ。
話している声にも元気が無い。疲労からなのか、もしくはどこか怪我でもしているのかもしれない。


「どうしてそんなところにいるんだい」
『ん…誘拐された…っぽい、』
「いま君1人かい?」
『いや、もう1人…というか犯人の仲間といる…かな』
「……どうやって電話してるんだい」
『むしろその骸ってやつが、電話取ってくれ…っ、え…? ぁ、っ、なに…、』
「千紘?」
『う…、離、し…っ、ん、ぅ…っ! んっ、っ…!』
「…………何者だい」


素直に答える千紘の声が不意に途切れ、ごそごそと電話口で身動きするような音と千紘の戸惑ったような声が聞こえてくる。
千紘の話からすると近くに犯人の仲間がいたようだから、必要以上に喋らせない為に口を塞がれたのかもしれない。
骸、と千紘が言っていた犯人の仲間の仕業だろう。雲雀はその人物に向けて低く唸るように声を掛ける。すると千紘ではなく、聞いたことのない男の声が返ってきた。


『…クフフ、千紘は可愛らしいですねぇ』
「…………」
『ほら、ちゃんと逃げないと食べてしまいますよ』
『っ、! や、めろってば! 離せ…っ、』
『クフ、本来は君を呼び出す餌だったんですが、このままでも良いかもしれませんね』
「勝手な事を言わないでくれる」
『おや、そうですか。ではお待ちしていますよ。さぁ千紘、顔を上げて』
『っん、!? っふ….っ、ん、ぅぅ…っ、ゃ、………、』
『…ん、気を失ってしまいましたか。初心で本当に可愛らしいですねぇ』
「咬み殺す」
『クフフ、出来るものならどうぞ』


ぶつり、と電話を切ってすぐに応接室を飛び出す。
千紘の言っていた黒曜ヘルシーランドとは確か今は閉園して廃墟になっているテーマパークだ。バイクを飛ばせばそこまで時間が掛かる距離でもない。
千紘を誘拐した目的は雲雀を呼び出すことだと言っていたことからして、並盛の中学生を襲っていた犯人と同一人物だと考えていいだろう。襲われた中学生はある程度腕の立つ者ばかりだった。そうなると頂点に君臨する雲雀も標的であると考えるのが妥当だ。
あの骸と言う男、並盛を荒らしただけでなく千紘にも手を出した。攫ったことは勿論だが、普通に口を塞がれたにしては千紘の声はやけに色を孕んでいた。あの男の満足気な口振りからしても間違いない。
この自分のものに手を出したのだ、あの男にはその身を持って償わせてやろう。


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2018.10.10 百
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