★君色の光 | ナノ 「……ん、?」


ふ、と目を覚ますと、薄暗くて殺風景な天井が見えた。
寝ているのはいつものベッドよりも硬くて少し湿っぽい。空気も埃っぽくて籠っている。
見覚えのない景色に千紘はぱちぱちと瞬いて自分の記憶を探ってみるが、どうにも繋がらない。やはり知らない場所にいるようだ。
この世界に来たときも同じように突然見知らぬ場所で目を覚ましたが、まさかまた世界が変わったのだろうか。それは非常に困る。
ぼんやりする頭でそんなことを思いながら身体を起こすとぐらりと視界が回り、後頭部に鈍痛が走る。
周りには壊れた机やらガラスの破片やらが散乱していてまさに廃墟。寝ていたのは古びたソファーのようだ。
頭に障らないようゆっくり立ち上がってガラスのない窓から外を見ると、外も荒廃したテントの名残やら崩れかけた建物が並んでいる。どこなんだここは。
痛む頭を擦りながら、とりあえず外に向かうことにする。人の気配もないし昼間だというのに薄暗いのもなんだか気味が悪い。
怪奇現象の類が苦手な千紘は早々に逃げ出すことにした。外に出てから考えよう。
そして出口に向かおうとした瞬間声を掛けられて、千紘は驚いて飛び上がる。


「クフフ、お目覚めですか」
「ぅうわっ!?」
「おや、驚かせてしまいましたか。どうぞ、座ってください」
「ど、どうも……あっ!思いだした!」


もしや幽霊か…!
泣きそうになりながら声の主を見れば、特徴的な髪形で柔和な笑顔を浮かべたイケメンだった。
独特の笑い声をしたイケメンにしっかりと脚があることにひとまず胸を撫で下ろす。よかった人間だった。
自分以外にも人がいたことへの安心感に千紘は言われた通りソファーへと戻る。隣に男が座り、身に付けている制服を見て記憶が蘇る。
いつも通りに学校から帰る途中、千紘は突然この制服を着た2人組に襲われた。抵抗する間も無くいきなり飛び掛かってきて頭を殴られて意識を飛ばしたのだ。
その2人組の顔は覚えていないが、目の前のこの男ではなかった。でも制服が同じということは。


「…あの、もしかして、俺いま誘拐されてます…?」
「強引に連れて来ましたので、一般的にはそうですね」
「あ、あの! 俺ここでは一人暮らしなのでお金ないです!」
「クフ、金銭が目的ではありませんよ」
「え、じゃあ何が目的で…」
「君自身ですよ。咲山千紘君」
「俺…? ま、まさか内臓ですか…!」
「クハハ! なるほど、なかなか面白い子ですね」


にこりと笑みを浮かべながら答える男に千紘は冷や汗を流す。幽霊よりもやばい状況だった…!
逃げ出そうにも促されるままに座ってしまって、しかも出口は男側にある。
じりじりとソファーの上で男から離れようと後退すると、笑顔のままの男にぐっと腕を掴まれて引き寄せられる。ヒッ、と悲鳴を漏らした千紘の顎をもう一方の手で持ち上げると至近距離で視線が合う。
そこで初めて男の瞳が左右で異なる色合いをしていることに気が付く。


「…あ、あの、」
「君は雲雀恭弥を呼び出すための餌ですよ」
「雲雀を?」
「ええ。君は彼のお気に入りのようですからね。彼を呼び出すには最も効果的だ」
「そんな大層なもんじゃないですけど俺…」
「それに、君自身にも興味が湧いてきました」
「…それは、やっぱり内臓的な…?」
「クフフ、退屈せずに済みそうですね」
「…?」
「そういえば名前を言っていませんでしたね。僕は六道骸」



マフィア殲滅の手始めに、ボンゴレの十代目の身体を手に入れることにした六道はランキングを元にボス候補を絞っていた。
上位者を中心に情報を集めていくうちに咲山千紘という人物を見つけた。名前や年齢、現住所、身長体重といった情報から見ても、至って平凡な中学生でしかない。身体能力と体格は平均を下回っていると言っても良い。
しかしそんな千紘が人との関わりを嫌う雲雀の傍にいることを許されている。さらに他のランキング上位者とも接点があるようで、これは利用しない手はない。
ランキング外だがボンゴレに関する情報を持っている可能性は大いにある。尋問する価値はあるし攫うことで雲雀恭弥を呼び出す良い餌にもなる。念の為千紘の確保に柿本と城島の2人に行かせたが、あっさりと捕えられてきた。やはり強い訳ではないようだ。
実際に目にしてもやはり普通の人間にしか見えない千紘で、しばらく遊んでみることにした。


「…すごい名前、ですね……」
「クフ。骸と呼んでください。僕も千紘と呼ばせて頂きます」
「へ…ど、どうも……」
「ところで千紘は雲雀恭弥とはどんな関係なんですか?」
「どんな…? お世話になってる友だち? ですかね…?」
「お友だちですか。随分仲良しなんですね」
「そんなこともな…っ、あの、骸さん、」
「どうかしましたか?」
「ちょっ、あの、近…っ」
「千紘は良く見れば可愛らしい顔をしていますね」
「ひっ、!」
「声も良い」


恐怖から緊張した面持ちで六道を見上げる千紘の細い腰に腕を回して更に抱き寄せる。
びく、と肩を跳ね上げた千紘は慌てて身体を離そうと暴れるが、体格差から簡単に腕の中に閉じ込められてしまう。後頭部側から回した手で千紘の顔を救い上げると、怯えたような表情で唇を引き結んでいた。
しかし長い睫毛で縁取られた色素の薄い瞳は真っ直ぐにこちらを見据えており、宝石のように綺麗だ。第一印象では大人しそうだと思ったが、しっかりと意思を宿していて美しい。
この咲山千紘という少年が身体的に非力で弱いのは事実だ。しかし精神までも弱々しい訳ではなさそうだ。それでこそ尋問のし甲斐があるというもの。
六道は愉しげに唇を歪めた。


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2018.10.03 百
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