★君色の光 | ナノ 「いらっしゃい! あなたが千紘くんね!」
「えっ! あ、お、お邪魔します…!」


玄関の扉を開いた瞬間、待ち構えていたらしい沢田の母がにこやかに迎える。
コンビニからの帰り道で千紘を連れ帰ることを事前に連絡していたからだろう。
炎天下を歩いたせいで溢れる汗を拭いながら千紘を見れば、たどたどしい動きで頭を下げていた。
そろりと窺うように上げられた顔は上気していて、母の笑顔にぐっと身体に緊張が走ったのが伝わる。ど、どうしたんだ。
おろおろと視線を泳がせ、縋るような視線をこちらに向けてきた。かわいい。
そんな千紘にふふ、と目を細めた母は、ご飯の準備できてるから台所に連れてきてね、とこちらに告げて奥に下がった。
その姿に慌ててお礼を言った千紘は母が見えなくなると大きく息を吐いた。


「……はぁぁぁ〜…」
「だ、大丈夫? どうしたの?」
「…俺、やっぱ変だった…?」
「え?」
「俺、実は初めてなんだ、友だちの家に呼ばれたの」
「えええ!? う、うそぉ!?」
「ほんと。だからどうしたらいいのかわかんない…」


大きく息をついて赤い顔でしょんぼりと呟いた千紘に目を剥く。
人当たりも良いし友だち多そうなのに意外すぎる。
それに普段はどちらかというと落ち着いてることの多い千紘がおろおろしてる様が非常にかわいくて驚いた。どこまで癒しなんだ。
とにかく上がってよ、と促すと再び緊張した様子でお邪魔します、と言いながら脱いだ靴をきちんと揃える。
そして控えめにきょろきょろとあたりを見回す。かわいい。


「ツナはひとりっ子?」
「うん。いま居候でチビが何人かいるけど」
「え、そうなんだ。じゃあ賑やかだね」
「うるさいだけだよ。今は昼寝してるよ」
「そっか」


そんな雑談をしてほっこりした気持ちになりながら、手洗いうがいを済ませてリビングへと向かう。
扉を開けば食器を並べていた母が千紘に笑いかける。すると途端にぎしりと千紘は動きを硬くする。顔の赤みはまだ引いていない。


「千紘くんってアレルギーとかあるかしら?」
「い、いえ! 大丈夫です」
「そう。良かった。ここに座ってね」
「はい…!」
「冷しゃぶとお蕎麦なんだけど食べられる?」
「あ、あの! 俺、そんなお腹減ってるわけじゃないので蕎麦だけで…」
「あら、だめよ。ツナに聞いたわ。ちゃんと食べてないんでしょう?」
「ぇ、いや、でも、」
「成長期なんだしちゃんと食べなきゃだめよ。ホラ、お肉も」
「あの、でも…」


千紘の言葉に眉を吊り上げた母に、千紘は居心地が悪そうに肩をすぼめた。
決して母は本気で怒ってはいない。千紘を心配してのことだ。基本的にお人よしで優しい母はだれに対してもそうだ。
対する千紘にとって『母親』はあまり身近な存在ではなかった。仕事も私生活も忙しくしていた人だから、幼い頃から一緒にいる機会がなかった。
ましてや心配された記憶もない。興味を持たれていなかったというわけではないだろうが、無条件に甘えられる存在でもなかった。
だから余計に沢田の母の気遣いに困惑してしまう。
出された食事と沢田の母を交互に見ながら困っている千紘に助け船を出したのは、遅れて入ってきたリボーンだった。


「大人しくママンの言う通りにするんだな千紘」
「え…、あ! お前…!」
「ちゃおっス千紘。久しぶりだな」
「あの時の赤ん坊!」
「えええ! まさか千紘とリボーン知り合いなの!?」
「し、知り合いっていうか…ツナは知り合い?」
「俺はツナの家庭教師だぞ」
「…んん? ギャグ?」
「ちがうぞ」
「いたっ。赤ん坊なのに家庭教師って何…」
「俺はヒットマンだからな」
「? 野球のなんか?」
「千紘…!」


リボーンを指差して驚いたように声を上げた千紘。
まさかマフィア関係者なのかと反射的に身構えたが、どうやら顔見知り程度らしい。
リボーンが殺し屋であることすら知らないのか見当違いのことを言う千紘に感動すら覚える。
普通の感性をもった千紘は、マフィアだのボンゴレだの殺し屋だの物騒な非日常に晒されていた自分のオアシスなのかもしれない。
熱くなった目頭を押さえる沢田に構わず、ぺちりと小さな指で千紘にでこぴんをしたリボーンは話題を戻す。


「話は後だ。とにかくお前は食え」
「や、だから俺……」
「そんな不健康な顔して大丈夫なんて言えねーぞ」
「そうよ! ホラ、遠慮せず食べて! ね?」
「……はい。すみません、いただきます…」


有無を言わさないリボーンと母の笑顔についに折れた千紘は、そろそろと箸を持ち上げた。
どう?食べられる?という母の問いに、照れたようにはにかみながらおいしいです、と告げた千紘はかわいかった。
ほんと、めちゃくちゃかわいかった。
嬉しそうにする母にぎこちないながらも言葉を返す千紘にほっこりしていると、にやりと悪い顔をしたリボーンと目が合う。
何だその顔。まさか千紘をボンゴレに巻き込むつもりか。
必死でぶんぶんと首を横に振るがそれを鼻で笑い飛ばすリボーンに超直感が働く。
だめだ、止められない。
以前心の中で千紘を守ろうと決めたにも関わらず、それは叶わないと悟ってしまった。


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2018.09.07 百
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