過去

中「なあ、旦那。お前色恋とかねーの?」

龍「は?色恋?急だな、ずいぶん」

中「なんか気になったんだよ。で?ないの?」

龍「んー…」

ない…わけではない。

だが恋愛感情か、といえばそれも微妙だ。

龍「どうだろうな」

中「な、なんだよその気になる言い方!」

龍「色恋なら俺よりお前の方だろ?柚樹のこと、好きなんだよな?」

中「うっ…」

龍「気になるんなら話しかければいいだろ?」

中「無理言うなよ。背後に鈴蘭がいるんだぜ?話しかけるのも緊張するわ」

龍「ヘタレ」

中「煩い!」

中河とふざけあいながら下校していた、冬のある日。

中「じゃ、旦那。また明日な」

龍「ああ、じゃあな」

中河と別れて、一人帰路についたとき。

龍「…?」

前の方に、地図を見ながら困り顔をしている少女がいた。

…どうかしたのだろうか。

そう思い、少女に近付いて話しかけた。

龍「どうかしましたか?」

そのとたん、少女はビクッと身体を震わせ恐る恐る振り返った。

?「い、いえ…なんでも、なんでもないです!すみません!」

いやそんな全力で謝られても。

龍「いや、なにか困っていらした様子だったので…なにかお手伝いできたら、と思ったんですが」

?「え、そんな…すみません!実は、道に迷ってしまって…」

龍「どちらに行かれるんですか?」

?「あ、あの…ここ、なんです…」

と、地図の一点を指す。

そこは、龍の家の近く。

龍「ああ、そこでしたら案内できますよ。俺の家の近くなので」

?「え、いいのですか?」

龍「はい、俺に付いて来てください」

少女はペコペコとお礼を言うと、大人しく龍についてきた。

道中、少女の名前は双葉といい大学生であることを聞いた。

龍(俺より歳上だったのか…)

双(うう…こんなときどうすれば…)

龍は知り得ないことだが、双葉は異性との接触経験はほぼ皆無だった。

龍「双葉さんは、この辺りは初めてですか?」

双「…はい。頼みごとをされて、来たんですが…地図を上手く使えなくて…」

龍「確かに、初めての土地ってわからないですよね」

そんな他愛のない話をしているうちに、目的地。

双「…あ、ここです!ありがとうございます!助かりました!」

龍「いえ、俺も楽しかったです。あ、そうだ…双葉さん」

双「はい?」

龍はポケットからメモ帳を出し、なにかサラサラと書くとそれを破いて渡してきた。

そこには、電話番号とメールアドレス。

龍「もしまたなにか困ったら、連絡してください」

龍が会釈して去っていくのを、双葉は唖然と見ていた。

まさか、あんな自然に連絡先を渡されるとは思わなかった。

双(ど、どうしよう…!?)

あたふたしていても仕方がないので、双葉は目的地に入ったが、その間も龍の連絡先のことが頭から離れなかった。


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