過去

刹那はゆっくりと目を開けた。

どうやら階段の途中のようだ。

今回はいったいどこに飛ばされたのやら。

見れば周りは山、そして自分の足元にはなかなかに急な傾斜が。

刹「…都合の良いものですね」

よりによってこんな山の中なんて。

刹那は何度目かわからない嫌悪を自分へ向けた。

いや、自分の力というべきか。

刹那にはどういうわけか、時空軸を越える力があった。

自分が普通でないことはよくよく知っていたものの、こんなものまであるなんて…。

しかも、最近になってその力が大きくなりすぎたのか、勝手に発動してしまうようになったのだ。

早ければ一時間、遅ければ半年以上など、本当に不定期だ。

今回は3ヶ月くらい。

刹「さて、ここは…」

あらためて辺りを散策しようと一歩を踏み出した瞬間。

下の方からこちらを目指している者たちが見えた。

?「なあ、こっちだったよな?」

?「ああ、変な光が落ちたのは絶対この先だ」

?「でも見つけてどうするんだよ?どんなものかもわからないのに…」

?「そのときはそのときだ」

とたんに刹那は青ざめ、上に向かって駆け出した。

?「おい、なんか音がするぞ!」

?「急げ!」

とにかく必死で逃げた。

見つかったら何をされるかわからないのだ。

?「どこ行った?」

?「こっちだ!」

どこへ逃げればよいか、どこなら隠れられるのか。

飛ばされてきて間もない刹那には、土地勘など存在しない。

道の許す限り、体力が許す限り。

ただ逃げた。

少しすれば諦めると思った後ろの者たちも、執念深く追ってくる。

果てしなく思えた。





刹「はぁ…はぁ…」

もう何時間逃げ回っただろう。

足は感覚を失い、呼吸も限界を向かえていた。

そして、なぜか追っ手がどんどん増えている。

それほど私を排除したいのか…。

刹那は歯軋りしながら、もつれそうな足をなんとか運んだ。

しかし、土地勘の有無のハンデは大きい。

ついに、行き止まりの道に来てしまった。

刹「しまっ…」

?「こっちだ!行くぞ!」

逃げ場を失い、立ちすくむ。

松明の明かりが近付いてくる。

じり、じりと後ずさった。

そしてついに…。

?「見つけたぞ!手間かけさせやがって」

10人ほどに逃げ場をふさがれた。

?「なんだ?小娘じゃないか」

?「いや、わからないぞ。おい、お前!こっちに来い!」

刹那は首を横に振る。

それに腹をたてたのか、強引に刹那の腕をつかんできた。

それを必死で振りほどいて…。

そこで、刹那は浮遊感を覚えた。

足が地につかない。



足を滑らせた。



刹「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

悲鳴をあげながら、刹那は山の斜面を転がり落ちた。

身体がようやく止まった時には、あちこち激痛が走っていた。

上の方でなにか言う声が聞こえる。

視界が暗くなる。

そのとき。

さく、さく、さく…。

足音だ。

刹(ああ、私も…ここまでですね)

刹那は足音を聞きながら、意識を手放した。



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