ずっと燿の話を聞いていたジューンは、ガクッとうなだれた。
ジ「…お前の言う通りだ。あの日オクトたちが来たんだ。結婚式を見たらしくてな」
燿「だと思った」
ジ「二人とも興奮していた。それでその勢いで俺とエイプリルにも結婚式をあげろと言うんだ」
燿「…」
ジ「そのときは大して気にしなかった。…ここからはお前の話と同じだ。任務の後ここに来たら…あの広告が見えた。俺はエイプリルを愛してる。できることなら…と思った」
燿(すごいナチュラルにのろけられたな)
ジ「…だが、話に聞けばプ、プロポーズ?には指輪がいるんだろ?俺は夢魔だ、人には見えない。それに金もそれほどはない。…途方にくれた」
燿「でも諦めきれずに時々そこに来てたわけだ」
こくり、とジューンが頷く。
さてと、と燿は考えた。
この悩めるイケメン君をどうするか。
いや、やることは決まってはいる。
だから、そろそろ…。
―燿ちゃん―
きたきた。
燿は、ジューンに「ちょっと失礼」と断り、脳内通信を繋いだ。
相手は言わずと知れた双葉。
燿「そっちはどう?」
―うん、本音をぶつけてくれたよ。燿ちゃんは?―
燿「こっちもOK。…どうするか」
―どうするかって、わかってるでしょ?―
燿「うー…お金…」
―たくさんあるんだもの、大丈夫だよ!―
普段ならこんなこと言われれば叱り飛ばす燿だが、双葉が相手では折れるしかない。
燿「はぁ、わかったよ。あと20分くらいだから」
燿は脳内通信を切ると、ジューンのもとに戻った。
ジ「?」
燿「…ここにいな。勝手に帰るなよ?」
ジ「?ああ」
燿は屋根から飛び降り、ジュエリーショップに向かった。
きらびやかな店内のガラスケースに綺麗な指輪やネックレス、イヤリングなどが陳列している。
店「なにかお探しですか?」
燿「ああ、知り合いがプロポーズのために指輪を探してて…あ、これ見せてください」
店「こちらで、はい」
出してもらったのはオパールのついたシンプルめなもの。
燿「綺麗ですね」
店「そうですね、指には映えるものかと思います。デザインも可愛らしくて人気ですね」
燿はエイプリルがこの指輪を着けているところを想像する。
…ま、問題はないだろ。
燿「これ、お願いします」
燿は値段を見て軽くため息をついた。
金亡者には痛い金額だが、今は仕方ない。
ケースと共に買った指輪を持ってジューンのもとに戻った。
ジ「何してたん…おい、それ…」
燿「…ん。使いなよ。私の奢りでいいから」
ジ「…いや、しかし…」
燿「四の五の言わずにさっさと受け取りな。そんでさっさとプロポーズしてこい」
明らかに不機嫌な燿だが、ずいっと差し出した袋を引っ込めるつもりはないらしい。
ジューンは大人しく受け取った。
ジ「…ありがとう、恩に着る」
燿「…早く行きな。今頃彼女が心配で倒れかけてるよ」
ジ「…ああ」
ジューンは立ち上がると、蝶の姿となって飛んでいった。
燿「…ま、頑張りたまえよ。ジューン君」
―――――――――――
エイプリルは、また一人でジューンを待っていた。
双葉は用があると戻ってしまったのだ。
双葉から色々聞いたものの、やはり一抹の不安が残る。
そのとき。
ふわりと、何かが自分を包んだ。
エ「ジューン!」
ジ「待たせてごめん、エイプリル」
ずっと待っていた人。
エイプリルはぎゅーっとしがみついた。
すると。
エ「?ジューン、ポケットに何か入れてる?」
普段はない固さ。
ジューンはエイプリルから離れた。
ジ「…俺、ずっと考えてたんだ。どうやったらエイプリルに一番ストレートに俺の想いが伝わるかって」
エイプリルは真っ直ぐジューンを見つめる。
ジ「前に、オクトたちが結婚の話してただろ?俺が愛してるのは君だけだ。でも夢魔は人間のような結婚式はできないかもしれない。だから…」
エイプリルは息を飲んだ。
ジューンのポケットから出てきたのは、指輪のケース。
さらに。
ジ「だから俺たち二人だけの契約でいい。…俺と結婚してくれないか?」
目の前でケースが開かれ、中から綺麗な指輪が現れた。
エイプリルは涙が止まらなかった。
ジューンがこんなにも自分を想ってくれていたというのに、自分は…。
声が出ず、ただこくこくと頷くことしかできないエイプリルの手を、ジューンは優しく取った。
そしてケースから出した指輪をエイプリルの左手の薬指に嵌めた。
指輪についた石は、月光を浴びて様々な色に輝いた。
エ「ジューン…ありがとう…ありがとう…!」
飛び付いたエイプリルを、ジューンも強く抱き締め返す。
固く確かな絆が、そこに生まれた。
この屋根の上のささやかな結婚式を見ていた燿と双葉は、顔を見合わせて笑うと、それぞれのコンピューターから【任務完了】のコマンドを押し、七隊の本拠地に戻った。
そしてもう二人。
依頼主の二人も、こっそりと参列していた。
メ「うまくいったみたいね」
リ「ええ。さて、せっかくだし料理を凝ろうかしら」
メ「あら、結婚式のディナー?」
リ「そう、デザートも付くわよ」
メ「それは楽しみだわ」
その日、ディナーはリープが腕をふるった素晴らしい料理の数々だった。
オパールの石言葉
【
幸福を得る】
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