(…もう夜明けか…。)

だんだんと強まって来た太陽の気配に、閉じていた瞼を開ける。

「…これなら、今日も良いお天気かな。」

一人呟いて窓を開けると、涼やかな風が吹き込んできた。解いていた髪がふわりと舞い上げられる。

「………。」

平和な…静かな朝。

眺め下ろした街並みに人影はない。いつも早くから起き出す商店にさえ、まだ煙が昇る様子はなかった。

(昨日は夜遅かったものね…。)

真夜中まで鳴り響いていた旋律は今でも耳に残っている。日頃は鎮魂歌に包まれる瓦礫の街は…昨晩だけはその音色を掻き消すかの様な、明るい旋律で満たされていた。

また、音もなく風が吹き込んでくる。


私がこの世界に帰って来たあの日から、3度目の朝。


昨日の式典…改めてしかしひっそりと執り行われた新女王即位式を全力で祝い疲れた国は、至って静かだ。

「…いい加減…お願い、しなきゃなぁ…。」

また誰に言うとでもなく呟いた言葉は、風にさらわれていった。



第T章 夜明け




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